【老老介護と認知症】「2人足して半人分」 夫婦助け合い生活

住宅や店舗が並び、車が行き来する福島市内の横断歩道。「青になったよ」。信号待ちをしていた近くに住む坂井幸代さん(82)=仮名=が夫正雄さん(86)=同=に声を掛けた。「そうか」。幸代さんに支えられ、横断歩道を歩き始める正雄さん。目に障害があり、信号の色をはっきり識別できない。「一緒に歩く妻が私の目の代わりですよ」
正雄さんの視力に異変が出たのは60代後半くらい。視力検査の際、検査表がゆがんで見えた。「これは治らない病気です」。医師からの無情の宣告。年齢を重ねると物がゆがんで見え、視野の中心が見えづらくなる加齢黄斑変性症だった。
最初は右目だったが、次第に左目にも異変が生じるようになった。人の顔を判別しにくく、文字も見えづらい状態になり、車の運転をやめた。
苦難の連続
視覚に障害が出てから数年。幸代さんにも異変が起きた。物事を忘れたり、使ったはさみを戻さなくなった。「ちょっとおかしいな」。検査の結果、アルツハイマー病と判明した。そこから苦難の連続だった。「コーヒーをいれて」と頼むとコップの中にみそを入れたり、炊飯器をこんろにかけようとしたり。「何やっているんだ」。正雄さんはイライラして声を荒らげた。棚の奥から腐った食べ残しが出てきたこともあった。「普通の人はすぐに気付くんだろうけど目が悪いから気付かない。認知症と障害があるから、大変だよ」
ある夏、正雄さんが目の治療のために入院することになり、幸代さんを施設に預けることになった。その数日前、幸代さんがいなくなった。「どこに行った」。正雄さんは街を一人で歩けないため、離れて暮らす子どもや警察に捜索を依頼した。行方が分からなくなってから7時間後、暗い街中でようやく見つかった。「施設に入るのが嫌だったのかな。生きた心地がしなかった...」。徘徊(はいかい)はその後もあり、正雄さんの不安は大きくなった。
高齢になって発症した正雄さんの障害と幸代さんの認知症。夫婦は互いの助けがないと生活していくのが難しい。「2人を足して半人分くらいかな」。正雄さんは自嘲気味に話す。
先に死ねない
外出がままならず自宅周辺で過ごす日々。「いい服を着たり、どこか旅行に行きたいという欲はぜんぜんない」。あるのは「自分が視力以外の病気にかからないようにしたい」という思いだけだ。「俺が動けなくなったら、妻は一人で暮らしていけない。妻より先に死ねない」。自身の障害と同時に、妻の認知症とも向き合っている。
◇
高齢者が高齢者を介護する「老老介護」。介護期間が長期化すれば、介護をする側の介護が必要になったり、仕事を辞めざるを得ないなど、新たな困難に直面するようになる。現状を追った。
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