【老老介護と認知症】「夫が楽しい一瞬を」...介護に専念へ退職

 
守さんがデイケアで作ったカレンダーや工作を見つめる和子さん

 通所する福島市のデイケア施設から出てきた三浦守さん(77)=仮名。手には施設で作った工作が握られている。「夫が一瞬でも楽しいと思えばそれでいいんです」。妻和子さん(72)=同=は、認知症の影響で工作をしたことさえ覚えていない守さんを思いやる。

 夫妻はかつて、いわき市に住んでいた。守さんは2011(平成23)年、12年と相次いで病気療養のため都内の病院に入院した。和子さんは週1回、高速バスで面会に向かった。保育士の仕事をしていたため、いつも日帰り。退院後も通院の付き添いを続けた。

 その間、守さんが認知症になった。症状は日々進み、和子さんが仕事に出ると守さんから電話がかかってくる。「どこにいるんだ」。話をすると仕事をしていると分かってもらえるが、すぐに忘れて電話をかけてきた。仕事に集中することはできなかった。

 食事や入浴の仕方を忘れ、孫の名前も思い出せない。子どもたちはすでに独立、いわき市の実家を離れていた。「(夫と)一緒に死のう」。そう思うほど、和子さんは疲れ果ててしまった。

 介護に専念するため、仕事を退職した。主婦として子育てを終え、若いころに取った保育士の資格を生かそうと考えた。飛び込んだ保育の現場は、和子さんにとって生きがいだった。心の支えを失ったような気がして、将来への不安だけが残った。間もなく、次男が住む福島市に転居した。

 面倒見るのは私

 「本当は仕事がしたい」。和子さんは本音を胸にしまい込んだ。守さんの認知症は進行し、会話が成り立たなかったり、トイレを失敗したりすることが続いた。仕事への復帰はとても考えられなかった。自宅で過ごす時間が増え、社会とのつながりも薄れていった。

 家族の勧めもあり、最近は認知症の人やその家族が集まるカフェに参加するようになった。自分と同じような境遇にある人がいることを知り、ようやく気持ちが少し前向きになった。「夫の面倒を見るのは私しかいない。自分ができるところまでやります」。仕事への思いはまだ消えないまま。自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 社会と関わりを

 総務省の17年の就業構造基本調査によると、本県の全離職者のうち、介護・看護を理由にする割合は3%。全国平均より1.2ポイント高く、全国で下から3番目だ。前回12年調査からは1.9ポイント増えており、増加幅は全国で一番大きい。

 高齢社会福祉が専門の松本喜一東日本国際大教授は「介護離職で最も問題なのは、社会との関わりが途絶えること。周囲が孤立しないようにサポートすることが重要だ」と指摘する。