『現代の湯治』へワーケーション推進 湯本温泉、健康づくりも

 
会議用のスクリーンやテーブルが設置された旅館こいとの宴会場

 仕事場を離れ、観光地などで業務に従事しつつ余暇を楽しむ「ワーケーション」。新型コロナウイルス感染拡大で全国的に注目を集める中、いわき市の湯本温泉では、「現代の湯治」として他地域との差別化を図る官民を挙げた取り組みが進む。温泉と健康づくりを組み合わせたパッケージで人を呼び込むことで、コロナ禍で苦境にある温泉地の活性化を目指す。

 湯本温泉の旅館こいと。ワーケーション推進に向けてWi―Fi(ワイファイ)などのインターネット環境が整備され、今月下旬には宴会場を会議室仕様に改装する作業が行われていた。

 ワーケーションに欠かせない「テレワーク」関連の機材を導入する場合、県や市の助成金を受けられる。同旅館もほかの旅館などと同様、新型コロナによる宿泊客の減少などの打撃を受けているが、これまでと違う需要に応えるため機材の整備などを決めた。

 「ウィズコロナや新型コロナの収束を見据え、やれることをやって客足が戻るのを待ちたい」。同旅館代表の小井戸英典さん(64)は考えを語る。

 湯本温泉では、市もモデル的に環境整備に着手。JR湯本駅や市常磐支所にテレワークスペースを設ける。年明けには首都圏の企業やフリーランスを対象に、ワーケーションを体験するモニターツアーを予定する。

 市は政策として推進する「健康づくり」をワーケーションに取り入れ、湯本温泉ならではの魅力を発信する考え。モニターツアーの参加者には、衣類に小型の測定器を付けてもらい、心身の健康データを「見える化」する試みも取り入れる方針だ。

 市の担当者は「温泉は何となくリラックスできるイメージがあるが、心身の回復を数値で見ることでより効果を実感してもらいたい」と狙いを明かす。

 データを基に、医師の助言を得られるシステムや、常磐地区に拠点を置くサッカーのいわきFCとの連携も想定している。モニターツアーの参加者から助言や提言をもらい、より具体的な取り組み内容を検討していく考えだ。

 湯本温泉はコロナ禍による苦境が続く。いわき湯本温泉旅館協同組合によると、5月の旅館宿泊者数は前年比で1割にまで激減。それでも緊急事態宣言解除後は客足が徐々に回復し、「Go To キャンペーン」や県民割の効果もあって10月は前年比で同水準となった。

 しかし、「Go To トラベル」の一時停止や感染の急拡大で、12月は大幅な減少が見込まれるという。

 旅館こいとの小井戸さんは「(ワーケーションを通じて)地域の魅力に触れてもらい、首都圏の人たちに移住を考えてもらえればなおいい」と期待を寄せる。