麻酔が効かないのは

 

 神経に薬 到達しないため

 

 私たち歯科医師は日常の治療でよく麻酔注射を使用します。今の麻酔注射は昔のそれと比較すると格段に良く効きますし、また針が細く良く切れるので刺入時の痛みもそれほど苦痛にはなりません。しかし、時としてしっかり麻酔効果を得られないことがあります。なぜ麻酔が効かないことがあるのか、検証してみましょう。

 歯の神経は顎の骨の中を通り、骨の中で枝分かれしてそれぞれの歯の中に入ります。麻酔薬を顎の骨の中まで注入することは困難です。せいぜい骨膜(骨を包む骨表面の膜)までです。一方、注入された麻酔薬は皮質骨(骨表面のもっとも緻密で硬い部分)に浸み込み、骨髄に到達し、更に骨髄中の体液の中を拡散し、歯の根の先端周囲に到着して、ようやく麻酔効果が現れます。

 では、どうして麻酔効果が不十分な場合があるのでしょうか? 結論から述べると麻酔薬が歯の根の周囲の神経まで十分到達していないからです。邪魔をしているのは何でしょう? まず、皮質骨が緻密で麻酔薬の浸潤を邪魔していることが考えられます。次に骨髄中の体液の圧が高く、拡散を阻害していることが考えられます。これらを臨床の面から検証しますと、皮質骨の厚い下顎の奥歯は麻酔が効きにくい傾向にあります。次に、歯の根の周囲(骨髄の中)に異変(炎症など)がありますと、麻酔は効きにくくなる傾向にあります。

 麻酔が効かないからといって不安を持たず、無理をせず、麻酔薬の投与経路を変え、あるいは鎮痛処置にとどめ、歯の周囲の消炎を待って後日再度治療を行うのも一法でしょう。

 また、歯科用局所麻酔薬には微量のアドレナリンが添加されているものも多く、これは交感神経刺激作用を有します。あらかじめ局所麻酔を用いる治療であることがわかっているときは、それほど神経質になることはありませんが、食事を抜いたり、睡眠不足だったりなどの体調管理には注意しましょう。

(県歯科医師会)