「ボツリヌス療法」 噛む力抑え歯ぎしり防ぐ

 

 歯科治療は「炎症と力のコントロール」といわれます。口腔(こうくう)内の痛みを伴う症状のほとんどは炎症に由来します。その炎症と並び称されるのが「力のコントロール」で、噛(か)み合わせの治療です。歯並びをなだらかにし、上下の歯同士の接触部位をバランス良く調整することで噛む力をコントロールします。

 通常であれば、この二つのコントロールによりほとんどの患者さんで症状の改善が認められます。しかし、力のコントロールがうまく奏功しない方もいます。食いしばりや歯ぎしりをされる方です。その力はとても大きく、男性だと250キロにも及ぶという報告もあります。

 この力により歯が極端にすり減ったり、歯の被(かぶ)せ物が壊れたり、顎(がく)関節症になったりと、さまざまな問題が生じます。通常はマウスピースを用いてこれらを予防しますが、眠れなくなったり、嘔吐(おうと)反射があったりと、どうしても使えない場合があります。

 近年、医科で使用されているボツリヌス療法の活用が米国で報告されました。この菌から毒素を取り除いた成分は、神経伝達物質「アセチルコリン」の分泌を抑える働きがあります。日本では顔面けいれんなどでも使われ、歯科では咬筋(こうきん)の緊張を抑え、食いしばりを抑制することが期待されています。ただ、保険適用外で、咬筋以外の側頭筋が関与する場合もあり注意が必要です。

 (県歯科医師会)