遺伝子の傷、自己修復可能

 

 放射線を浴びると、これからの世代に影響があるのではないかと心配される方がおられるかもしれません。しかし、今回の事故による放射線によって、次世代への遺伝的な影響を危惧しなければならない状況には全くありません。

 放射線による遺伝影響については、20世紀当初から世界中で盛んに研究が行われていました。1927年、アメリカのマラー博士はショウジョウバエのオスに放射線を浴びせると、世代を超えて影響が出ることを発表しました。この研究は注目を浴び、マラー博士は1946年にノーベル生理学・医学賞を受賞します。

 しかしその後、広島・長崎の被爆2世には遺伝的な影響が見られなかったり、マウスを用いた実験では、ショウジョウバエと同じようには異常が出なかったりと、マラー博士とは異なる結果が報告されるようになります。

 われわれは、放射線によって遺伝子が傷を受けても、その傷を修復することができます。その一方で、マラー博士の実験でのショウジョウバエの精子は、修復活動ができない特別なものであったことが後に判明しました。傷を修復できるかの違いが、遺伝影響が生じるかどうかの違いの原因となっていたのです。