糖尿病の成因 ~血糖値の上昇がシグナル

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、糖尿病の成因についてお話くださいます。
糖尿病の成因 ~血糖値の上昇がシグナル
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 「糖尿病は、治るのでしょうか?」とご質問いただくことが よくあります。これは、お返事することがとても難しい質問です。なぜなら、糖尿病には、たくさんの種類があり、さらに同じ種類の糖尿病の中でも、患者さん ごとに病気の状態の差が大きいからです。今回は、代表的な糖尿病の成り立ちと診断、早期からの治療などについてお話いたします。

最も患者数が多い「2型」

 糖尿病で一番多いのは、過食(特に高脂肪食)、運動不足や生活習慣の乱れなどが関係する「2型糖尿病」です。ただし、注意しなければならないのは、2型 糖尿病発症の根底には、インスリン分泌低下(インスリンが出にくい状態)やインスリン抵抗性(インスリンの効きにくい状態)をきたす複数の遺伝的因子が関 連していることです。インスリン分泌低下と、インスリン抵抗性が糖尿病発症へ関わる割合は、患者さんごとに異なっており、糖尿病の治療を複雑にする要因の 一つになっています。
 食事を取ると、栄養は小腸から吸収され、血液に取り込まれます。血液中の糖分が血糖です。血糖の上昇に合わせてタイミングよくインスリンが分泌され、効 果的に作用していると、体中の臓器に分配された血糖は"栄養"として効率よく利用されます。インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されます。血糖が高い状態で は、より多くのインスリンが要求されるため、膵β細胞に大きな負担がかかってしまいます。また、高い血糖自体が、インスリンの働きを悪化させてしまうこと もあります(糖毒性)。したがって、膵臓を守るためにも、2型糖尿病は発症後、できる限り早いうちに診断を受け、適切な治療を始めることが重要です。もち ろん、糖尿病を発症させないような生活習慣を心掛けることが、最も大切であるのは言うまでもありません。
 2型糖尿病の診断で最も重要なのは「血糖値」です。空腹時血糖120㎎以上、食後血糖200㎎以上が複数回確認された場合、または、ヘモグロビン A1c6.5%以上(ヘモグロビンA1cは1~2か月間の血糖の平均の目安となります)と同時に血糖上昇が確認された場合は「糖尿病」と診断されます。さ らに、早いうちから発見するには「75g糖負荷検査」が有効です。この検査では、シロップを飲んで2時間後の血糖値が200㎎以上を示した場合、糖尿病と 診断されます。

インスリン欠乏で発症「1型」

 一方、「1型糖尿病」は、免疫の異常のために自分の膵臓のβ細胞が破壊されてしまい、インスリンの欠乏が生じて発症します。特定の遺伝因子にウイルス感 染など、何らかの環境因子が加わって起こる場合や原因が特定できない場合もあります。インスリンの絶対的な欠乏が生じる場合が多く、現時点では注射によっ てインスリンの補充を続けていかなければなりません。1型糖尿病には、膵β細胞の破壊が、発症後数日間で起こってしまう「劇症」、発症後数か月で起こる 「急性」、発症後数年以上かかる「緩徐進行性」があります。劇症1型糖尿病の発症時には、急激に症状が悪化し、時には命にかかわるため、入院して迅速なイ ンスリン補充が不可欠です。緩徐進行性1型糖尿病に関しては、症状の進行は緩やかなのですが、膵β細胞を保護するために、発症後、比較的早期からインスリ ン療法を導入することがすすめられています。緩徐進行性1型糖尿病の発症初期は、2型糖尿病の症状と似ているので鑑別に注意を要します。

妊婦さんも注意が必要です

 「妊娠糖尿病」は"妊娠中に発症もしくは初めて発見された、糖尿病には至っていない糖代謝異常"と定義されています。妊娠の初診時や妊娠期間中に、血糖 値が100㎎以上を示した場合は、75g糖負荷検査を受けてください。(1)空腹時血糖が92㎎以上(2)負荷後1時間の血糖値が160㎎以上(3)負荷 後2時間の血糖値が153㎎以上―のいずれかの項目を満たす場合は、妊娠糖尿病と診断されます。妊娠糖尿病の治療は、母体や胎児への影響を考慮して、イン スリン療法により行われます。通常の糖尿病よりも厳格な血糖コントロールが求められます。

発症早期からの治療が重要

 すべての糖尿病で、発症早期からの治療は重要です。妊娠糖尿病は、出産によりリセットされます。しかし、妊娠糖尿病に罹患した妊婦さんの半数近くは2型 糖尿病を発症することが知られています。出産後も、食事や運動などの生活習慣には十分に注意して、糖尿病を発症させないよう気をつけてください。1型糖尿 病の患者さんは、現在のところ、発症時からインスリン療法を継続しなければなりません。最近、人工臓器の研究が急速に進歩していますので、私見ですが、そ の成果に期待を寄せています。2型糖尿病に関しては、血糖が高い場合は、発症後、比較的早期でもインスリン療法を導入して血糖コントロールを改善させ、膵 β細胞に過剰な負担をかけないようにすることが重要です。特に、膵β細胞が十分に残存し、インスリン分泌機能が維持されている患者さんの膵β細胞保護は大 切です。2型糖尿病に対する薬物療法も急速に進歩していますので、食事、運動療法を基本として"自分の糖尿病"に合った治療を受け、糖尿病を良好な状態に 維持していくことをお勧めいたします。 

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 次回は、血糖コントロールについて、食後高血糖回避、低血糖回避の重要性など、お話したいと思います。
4月号より