高血圧症の治療~生活習慣の修正が基本

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、高血圧症の診断についてお話くださいます。
高血圧症の治療~生活習慣の修正が基本
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 

 先月号では、体の状態に合わせた高血圧の治療目標についてお話いたしました。今月号からは、高血圧の治療についてお話いたします。
降圧薬の作用の安定と増強を期待
 高血圧治療の基本は、生活習慣の修正です。生活習慣の修正によってもたらされる降圧効果は軽度ですが、降圧薬の作用を安定させ増強する効果が期待されます。降圧薬がどんどん増えてしまわないように、できれば降圧薬が減量されるように、生活習慣の修正を続けることは、とても大切です。まず、塩分の摂取を1日6g以下にしましょう。残念ながら、現在、日本人の平均的塩分摂取量は1日10gを越えています。みそ汁を薄味にし、1日1杯に抑えるなどの努力をされている方も多いと思います。しかし、最近は、仕事などのために外食が多くなり、家で食事を摂る時も、惣菜を購入して食べる"中食"も増えています。外食、惣菜とも、塩分の含有量が多くなりがちなので、食べる量を少なめにするなどの配慮が必要です。もう一つ、注意していただきたいのが、加工食品の塩分です。加工食品の栄養成分表示は「食塩相当量」ではなく「Na(ナトリウム)」で表示するように決められています。Na量は2・54倍(約2・5倍)すれば食塩相当量になりますので、換算してください。運動も血圧を下げる効果(降圧効果)が認められています。本年7月号で紹介いたしました運動療法に関する説明をご確認いただければ幸いです。その他、アルコールの過剰摂取や喫煙も高血圧を悪化させますので節制してください。 
症状で変わる処方の優先順位
 降圧薬を薬局で購入する時に、"薬品情報"の説明があると思います。複数の降圧薬を処方されている患者さんは「全部血圧を下げる効果のある薬で、効果が同じなら、薬を減らせないのかな?」と考えられるのではないでしょうか。降圧薬には、それぞれに特徴があり、患者さんの病状によって、処方される優先順位が変わってきます。また、処方してはいけない場合もあります。降圧薬の組み合わせはデリケートで注意を要します。
 代表的な降圧薬に関してご説明いたします。一番多く処方されているのは、カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)です。これは、血管にある筋肉(血管平滑筋)の緊張を緩めて血圧を下げる降圧薬です。高血圧によって左心室が肥大している場合、狭心症を合併する場合、慢性腎臓病と診断されても尿蛋白が陰性の場合などに投与されます。内服開始直後より、降圧効果が現れ、価格も比較的安価です。Ca拮抗薬の中でも、それぞれの特徴により使い分けが行われています。
 二番目に多く処方されているのは、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)です。これらの降圧薬はアンギオテンシンⅡというホルモン様物質の働きを抑制します。アンギオテンシンⅡとは、血圧の調整に関わっている重要な物質です。その主な働きとしては、①血管を収縮させて血圧を上昇させる②血圧を上昇させる働きのあるアルドステロンというホルモンを増やす③体の中のナトリウムを増やす④その他―など多彩です。ARB、ACE阻害薬は、血圧を下げるとともに腎臓、心臓、脳などの臓器を保護します。心不全や心筋梗塞後、脳血管障害の慢性期、慢性腎臓病で尿蛋白が陽性まで進行している場合などに投与されます。特に、糖尿病では最初に投与されるべき降圧薬(第一選択薬)に位置付けられています。ただし、妊娠中、授乳中の女性には投与禁止です。
塩分制限が難しい場合には、尿の中にナトリウムを排せつさせて血圧を下げる薬(利尿薬)を投与することがあります。糖尿病やメタボリックシンドロームなど、食塩の摂取が血圧の上昇に反映されやすい状態で、特に降圧効果が期待できます。安価で良い薬なのですが、投与に際しては、尿酸の上昇、高齢の患者さんの脱水などに注意する必要があります。


 β遮断薬は、交感神経(血圧の上昇、心拍数の増加などを起こす)の作用を抑制し、心臓の過剰な活動にブレーキをかけて血圧を下げるなどの効果を示します。交感神経の活性が盛んな若年者の高血圧症や一部の狭心症、慢性心不全、心筋梗塞後、甲状腺機能亢進症の方などに投与されます。一方、喘息や心拍数が少なくなりやすい患者さんには、症状を悪化させる可能性があるため、投与が禁止されています。また、β遮断薬は、糖尿病の患者さんの"低血糖の自覚症状"を感じとりにくくしてしまうため、要注意です。
 α遮断薬は、交感神経末端の働きを抑える降圧薬です。早朝の血圧上昇に対して投与されることが多く、時に、めまいなどを生じるため、少量から開始されます。
適切な組み合わせと調整が大切

 これら以外にも、種々の降圧薬が存在しています。心臓病や腎臓病、糖尿病など、患者さんの病状に基づいて、適切な降圧薬を組み合わせます。さらに、季節の変化や生活環境の変化によっても、降圧薬の調整が必要な場合があります。
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 次回は、治療を受けても、なかなか血圧が下がらない高血圧(治療抵抗性高血圧症)の原因や治療についてお話しようと思います。
10月号より