脳卒中について。その1

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。今回から公立藤田総合病院(国見町)副院長の佐藤昌宏先生が担当します。
脳卒中について。その1
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

     

 このたび、大森中央クリニックの横田崇先生からバトンを受け継ぎました国見町の公立藤田総合病院の佐藤です。横田先生とは大学の同級生だけでなく親友でもあることから、この欄をご紹介いただき担当することになりました。私は脳神経外科医ですので、これからは主に脳の病気やその予防について解説していきたいと思いますので、しばらくの間、お付き合いください。

 はじめは脳卒中についてです。脳卒中とは脳血管障害、つまり脳の血管が病気になった結果、脳が損傷されることの総称です。その約75.4%は脳梗塞であり、約17.8%が脳内出血、約6.8%がくも膜下出血です(図1)。これらはほとんどが脳を養っている脳動脈に原因があります。1980年台までは脳卒中が日本人の死因の第1位でしたが、血圧管理が進んだことや、国を挙げての脳卒中対策が功を奏して死亡者数は減少しております。現在では癌、心筋梗塞、肺炎に続いて第4位になりました。ただ、介護が必要になった原因疾患では脳卒中が第1位であり、また、65歳以上の高齢者の寝たきり原因も脳卒中が第1位です(図2)。死亡者数は減少しておりますが、脳卒中の発症数自体は減っておらず、また、一度脳卒中になると日常生活に支障をきたしてしまうことが多くなります。

 まず脳卒中の約7割以上を占める脳梗塞について解説します。脳梗塞は大きく分けてアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ脳梗塞に分けられます(図1、図3)。

1 アテローム血栓性脳梗塞
 脳動脈に粥状硬化症が起こり、動脈の壁に脂肪やカルシウムなどが沈着して厚くなるため、動脈内腔が狭くなることで脳に血液が十分に行かなくなったり、内腔の壁にある血栓が脳に飛んで末梢の動脈が閉塞したりして脳梗塞となります。脳は男性で約1300~1400g、女性は約1200~1300gと体重の約2.5%ですが、脳血流は心拍出量の約15%を必要とする臓器であり、一番血流が必要な臓器でもあるため、逆に脳は虚血(血流が不足すること)には弱くなります。粥状硬化症の原因は高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、加齢、過度のアルコール摂取などです。加齢を防ぐことはできませんが、その他の病態は治療や生活習慣を規則正しくすることで予防が可能です。

2 心原性脳塞栓症
 ほとんどが心臓内にできた血の塊(血栓)が突然脳に飛んで、太い動脈を閉塞させてしまう脳梗塞です。ではなぜ、心臓内に血栓ができてしまうのでしょう。これには心房細動という不整脈が関係していることが多いです。心房細動とは正常な心臓とは違い規則正しく脈を打たず、震えるように全く不規則に脈を打ってしまうことをいいます。正常な心臓では、1回の心拍出で左心室の血液はほぼ全量が大動脈へ押し出されますが、心房細動では心臓の収縮と拡張が不十分になるため、心臓の中に血液が滞留してしまい、血栓ができてしまいます。それが少しずつ大きくなり、突然、心臓内から大動脈に押し出されて全身へ飛んでいってしまいます。脳に飛べば脳梗塞、その他四肢の動脈や内臓等の血管にでも血栓は飛んでいく可能性があります。大きな血栓が脳に飛べば太い脳動脈が閉塞してしまい、症状はより重症になります。

3 ラクナ梗塞
 太い脳動脈から分岐している穿通枝と呼ばれる数十から数百μの細い動脈が閉塞して起こる脳梗塞です。症状は運動麻痺や呂律障害などが多く、意識障害を伴うことはほとんどありませんが、麻痺が長引いてしまうことがあります。ラクナ梗塞の原因には高血圧が関与しているといわれています。

 脳梗塞の症状は、突然に出現する左右どちらかの手足の運動麻痺、意識障害、呂律障害や話ができなくなる失語症、視野障害などです。脳卒中は『突然に中る(あたる)』という意味ですから、突然に発症することがほとんどですが、前兆がある場合もあります。これを一過性脳虚血発作(TIA)といって、上記の症状がいったん出現して24時間以内に消失し、永続的な神経脱落症状が残存しないものです。十数分以内に改善することが多いようです。TIAの発作後90日以内に脳梗塞を発症する頻度は10~20%といわれ、多くは48時間以内に発症します。TIAは脳梗塞の前駆症状であり、脳梗塞を疑った場合には可及的速やかに原因検索を行い、治療を開始すべきです。原因としては、脳動脈硬化性病変や心臓内血栓からの微小な塞栓による一時的な脳動脈の閉塞、内頚動脈起始部や頭蓋内動脈に狭窄や閉塞が存在している際に全身血圧低下時によって生じる血行動態血流不全が挙げられます。TIAの時に検査、治療を始めれば脳梗塞に陥らずに済むことがありますので、もし、上記の症状が出現したらすぐに病院を受診して原因検索をすることをお勧めします。

 脳卒中の予防のためには高血圧の管理が最も大切です。「高血圧治療ガイドライン2014」では、若年者、中年、前期高齢者、脳血管障害患者や冠動脈疾患患者(狭心症や心筋梗塞の既往患者)では診察室血圧が140/90未満、家庭血圧が135/85未満を目標にしております。脳梗塞も140/90を超えると発症率は2倍以上になるといわれています。目標血圧になっているか、起床後トイレを済ませた後の朝食前と夕食後の1日2回、家庭血圧を測定し記録しておくのが大切です。

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 次回は脳梗塞の治療について解説します。

月号より