脳卒中について。その7

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。今回から公立藤田総合病院(国見町)副院長の佐藤昌宏先生が担当します。
脳卒中について。その7
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

      

 これまでお話した、恐ろしい脳卒中にならないようにするためには、どうしたら良いのでしょうか。今回は脳卒中の予防についてお話します。脳卒中は脳血管障害の総称です。つまり脳を養っている脳動脈に原因があります。その脳動脈が病気になること、特に前回お話した動脈硬化を防ぐことが大切になります。2003年に公益社団法人日本脳卒中協会が【脳卒中を予防するための十か条】を発表しました。それらについて解説していきます。
 脳卒中の発症は、喫煙、多量飲酒、不規則な食生活、運動不足、睡眠不足などの生活習慣の乱れから始まります。その乱れが長年持続すると、高血圧、糖尿病、不整脈、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの危険因子が現れます。そして、その管理が不十分になると脳卒中を発症してしまいます。脳卒中を発症すると命の危険はもとより、介護が必要な状態になる恐れが極めて高くなるため、発症予防が最も大切です。以下がその十か条です。

【脳卒中を予防するための十か条】 1.手始めに高血圧から治しましょう
2.糖尿病放っておいたら悔い残る
3.不整脈見つかり次第、すぐ受診
4.予防にはたばこをやめる意思を持て
5.アルコール控えめは薬、過ぎれば毒
6.高すぎるコレステロールも見逃すな
7.お食事の塩分・脂肪控えめに
8.体力にあった運動続けよう
9.万病の引き金になる太りすぎ
10.脳卒中起きたらすぐに病院へ
 それぞれについて見ていきましょう。

Ⅰ高血圧
 脳卒中の予防を考慮した際に、リスクファクターとして最大のものは加齢と高血圧です。加齢は治療できませんので、高血圧の管理が大切です。脳内出血の原因は高血圧ですので、血圧を下げれば直接、発症を抑制できます。脳梗塞も140/90を超えると発症率は2倍以上になると言われています。では、どの程度に血圧を保てれば良いのでしょうか? 診察室での目標血圧は糖尿病や慢性腎臓病のある方は130/80未満、家庭血圧では125/75未満です。また若年者、中年者、冠動脈疾患後、脳卒中後の方は140/90未満、家庭血圧で135/85未満を目標とします(図1)。一方、血圧を下げすぎるのは良くないといった意見も中にはあります。
 しかし、この考え方は高血圧専門の学会などで科学的に、特殊な場合を除いて否定されています。自分で判断せずにかかりつけ医と相談し、最適な治療を受けてください。一般社団法人日本血液学会のJSH2019の素案によると、高血圧の基準と降圧薬の開始基準については従来の140/90以上とする一方で、降圧目標は75歳未満の患者は原則130/80未満。130~139/80~89の未治療患者には生活習慣改善を強化する。75歳以上の患者の降圧目標も引き下げ、140/90未満とするとあります。
 そのためには、1日6g以下の食塩制限、野菜や果物の積極的摂取、そして適正体重の維持、禁煙が大切です。アルコールは1日でビール大瓶1本、または日本酒では1合程度に抑えましょう。皆さんも家庭血圧が目標血圧になっているか、起床してトイレを済ませた後で薬を内服する前と就寝前の1日2回、血圧を測定して血圧手帳に記録しておき、かかりつけ医を受診する際にはそれを持参して、よく相談してみましょう。

Ⅱ糖尿病
 次に大切なのが糖尿病です。有名な久山町研究では、糖尿病がある人は無い人に比べて約3倍脳梗塞の発症リスクが高まるとされています。糖尿病があると動脈硬化が起こりやすくなります。つまり血管が実年齢より早く年をとってしまうという訳です。血糖の平均値を示す指標となっているHbA1cが1%上昇すると、脳卒中は17%増加するというデータもあります。
 特に、高血圧や脂質異常症を合併しているメタボリックシンドロームの患者さんや喫煙の習慣のある患者さんは動脈硬化の進行が早くなるため、厳密な血糖コントロールが必要です。これは脳卒中の発症予防だけでなく、心筋梗塞の予防にもつながります。糖尿病自体は高血圧と同様に最初、何の症状もありませんので、ついつい放置しがちですが、症状が出た時には血管がボロボロになっていることが多いので、定期的な血液検査が必要です(図2)。

Ⅲ不整脈
 次に怖いのが不整脈です。通常は規則正しく拍動している心臓に何らかの障害が起こり、脈のリズムが乱れることを不整脈と言います。なぜ、脳と関係ない不整脈が脳卒中を引き起こすかといいますと、これまでのシリーズでもお話したように、特に心房細動という不整脈のある人は心臓の中で血液がスムーズに流れずに、心臓の中で血液がうっ滞して血栓という血液の塊ができやすくなります。その血栓が脳の動脈を詰まらせてしまい脳梗塞になるためです。心房細動を持っている方は、持っていない方に比べて脳梗塞を発症するリスクが約5倍高くなると言われています。加齢、高血圧、糖尿病などの危険因子が重なると、さらに脳梗塞を発症しやすくなります。高齢者に多い不整脈ですので、脈が乱れていると感じたら、すぐに病院を受診しましょう。その際には抗凝固剤の内服が必要になってきます。

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 次回は脳卒中の予防の続きです。

月号より