脳卒中について。その12

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その12
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 前回に続いて、脳卒中の後遺症に対するリハビリテーション(リハビリ)についてお話します。
 脳卒中に万が一罹患してしまったら、できるだけ早くからリハビリに前向きに取り組むことが回復への近道です。リハビリの刺激と訓練により、脳の回復は起こりやすいと考えられています。通常、発症から6か月以内までは症状が回復する可能性がありますので、諦めずに根気よく続けることが大切です。また、その後でも訓練をしなくなると筋力は落ちてしまい、関節は拘縮(関節が硬く動かなくなること)してしまいますので、継続することが大切です。ただし、無理な負荷をかけると関節や筋肉を傷める可能性があり、注意が必要です。
 リハビリに関しては、障害自体の治療よりは代償に比重を置くことが多くなります。麻痺側のリハビリを行い、回復がこれ以上望めないとなった場合には代償、例えば上肢で言えば、健側の上肢だけで身の回りのことができるようにする。下肢では、麻痺側に装具を着けて固定を図り、歩行訓練を行うなどになります。

 リハビリテーションの担当は?

 脳卒中の患者さんたちにリハビリを行うのはセラピスト(療法士)です。国家試験に合格して資格が与えられる理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を言います。3つの職種にはそれぞれ専門があり、役割を分担しています。症状により、一人の患者さんに対して各セラピストが連携を取りながらリハビリを行います。

 1.理学療法士(PT:Physical Therapist)

 起き上がる、座る、立つ、歩くなど、生活をするうえで基本となる動作を「基本的動作」と言います。理学療法士は基本的動作に必要となる各関節の動きや筋力などをチェック(評価)し、基本的動作能力を向上させたり、獲得させたりするための運動や練習を行います。

 2.作業療法士(OT:Occupational Therapist)

 ご飯を食べる、トイレに行く、着替えをする、歯を磨く、字を書く、入浴するなどの日常生活で普通行っている行動等を「応用動作」と言います。作業療法士は不自由になった腕や手の機能などについて評価し、応用動作能力を獲得させたり、向上させたりするため、主に作業を取り入れながら訓練を行います。また、日常生活に支障をきたしている高次機能【知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能を総称したもの】障害の評価、訓練を行います。

 3.言語聴覚士(ST:Speech Therapist)

 言語聴覚士は「聞く」「話す」「読む」「書く」などの言語機能の障害を持った患者さんの評価を行い、必要な助言、訓練を行います。また、摂食・嚥下障害(食べ物をうまく食べられなくなった状態)のある人に対して評価を行い、原因を見つけ、状態によって嚥下の訓練を行います。STも高次機能障害についての評価、訓練を行います。

 後遺症は?

 後遺症としてどのような障害が現れるかは、脳血管の損傷を受けた部位によって異なります。そして、リハビリでは日常生活に影響しているもの、あるいはリハビリにより改善が期待できる障害について焦点が当てられます。

 1.運動麻痺

 運動に関わる脳の部位に障害が起こると、体が思うように動かせない、麻痺する、力が入らないなどの症状がみられます。通常は脳の障害が起きた部位の反対側に運動機能障害がみられる(例:右脳に障害が起きた時には、左側の運動機能に影響が出る)のが特徴で、「片麻痺」や「半身麻痺」と呼ばれます。
 片麻痺は量と質の2つの側面で評価されます。量的側面は残されている筋肉の力、すなわち文字通り筋力です。一方、質的側面は多様です。運動麻痺は当初、弛緩性麻痺(筋肉の収縮が起こらない)から始まり、連合反応(健側の筋収縮が麻痺側の筋収縮を惹起させる)、筋痙縮(麻痺の後に出現してくる筋肉の過剰な収縮)、さらには共同運動(例:手を口に近づけようとすると、肘が屈曲するだけでなく指、肩、手関節まで屈曲してしまう)、そして、分離運動に回復してきます。それをいろいろな尺度を使って評価します。また、体のバランスを取ったり、運動をスムーズに連動させたりする機能を持った小脳が障害されると、筋力はあるものの運動失調となります。すなわち協調性が悪くなるため、起立、歩行時のふらつきが強くなったり、手の細かな動作が障害されたりするため、その改善のための訓練も行います。

 2.知覚障害

 半身麻痺で運動障害が起こるのと同様に、半身の感覚が麻痺したり、しびれたり、触覚、痛覚、温度覚が鈍ったりするという感覚障害が起こります。関節位置覚・運動覚の障害が感覚性運動失調症を生じて、リハビリに悪影響をきたします。また、左半身の位置覚・運動覚障害が重症の知覚障害では、しばしば半側空間無視を伴い、運動麻痺は軽いものの、日常生活に悪影響をきたします。感覚障害自体はリハビリで回復はしませんが、訓練により知覚障害に慣れた生活を送れるようにします。

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 次回もリハビリテーションについてです。

月号より