脳卒中について。その14

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その14
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回も、前回お話した脳卒中の後遺症とリハビリについての続きです。今回は運動麻痺の際に起こる筋痙縮についてお話します。
 筋痙縮とは(図1)

 脳卒中の後遺症でよくみられる障害の一つに筋痙縮という症状があります。痙縮とは、筋肉が緊張しすぎて手足が動かしにくかったり、勝手に動いてしまったりする状態のことを言います。手の指が握ったままとなり開きにくい、肘が曲がる、足先が足の裏側のほうに曲がってしまうなどの症状がみられます。
 脳卒中の発症後、時間の経過とともに運動麻痺(片麻痺)と一緒に現れたり、麻痺が残存した後に起こることが多い症状です。欧米の脳血管障害患者に関する調査では、脳血管障害の発作3か月後に19%、12か月後に38%の患者に痙縮が認められたと報告されています。痙縮により筋緊張が増加すると、さまざまな四肢の姿勢異常を来します。

 上肢の痙縮

 上肢の姿勢異常としてよくみられるものには、肩関節が内側に寄ったまま動かない、肘関節や手関節が曲がったままになる、握りこぶしを作ったままの状態、親指が手のひらの中に埋もれてしまうなどがあります。そうなると着替えや入浴が困難になったり、肘が壁や人にぶつかったりします。さらに手が洗えなかったり、爪が切れなくなったり、物がつかみにくくなるなどの困った症状が出てきます。

 下肢の痙縮

 下肢の姿勢異常としては、つま先立ってかかとがつかない、足の外側だけを使用して歩行する内反尖足や、足の指が曲がったまま伸びず体重がかかって痛みが生じる母趾の屈曲、膝関節が伸展したままになり歩行時に足が床にぶつからないように患側の骨盤を上げて歩行する『ぶん回し歩行』になってしまうなどがあります。あるいは逆に膝関節が屈曲したままになり立位や移乗動作、座位保持が困難になったりすることがあります。その他、股関節の内転、股関節の屈曲、母趾過伸展などがみられます。

 痙縮の治療

 痙縮の治療目標は、患者さんが抱えている問題、例えば自分の痛みや上肢機能、歩行など動作の問題を改善することなのか、患者さんのセルフケアや介護時の問題なのかにより個別に設定します。ただし、患者さんのなかには筋緊張の増加を歩行や移乗に利用している方もいるため、痙縮の治療が必ずしも問題の改善につながるとは限りません。したがって、問題を引き起こしている原因を特定し、治療によってその問題が改善できるかどうかを検討した上で、現実的な目標を設定するようにします。介護者に対する影響を考慮することも忘れてはいけません。痙縮の治療法には、経口抗痙縮薬による薬物治療、神経ブロック療法、バクロフェン髄腔内投与、外科的治療、ボツリヌス療法などがあります。これらは痙縮の分布や重症度に応じて選択されます。そして重要なのはリハビリの併用です。 痙縮の治療選択肢。

 痙縮の治療選択肢(図2)

 1.薬物療法

 薬物治療として抗痙縮薬を内服する方法があります。中枢神経に作用するものや神経筋接合部に作用するものがありますが、いずれも全身性で、希望する部位にのみ選択的に作用させることはできません。

 2.神経ブロック療法

 運動神経に薬物を直接作用させる治療法で、筋肉内のモーターポイントにフェノールやアルコールといった薬物の注射を行います。効果は限局性です。

 3.バクロフェン髄腔内投与

 患者さんの体内にポンプを植え込み、抗痙縮薬の一つであるバクロフェンを持続的に髄腔内へ注入する治療法です。効果は全身に及び、しかも大変強力ですが、大抵、全身麻酔と手術が必要になります。

 4.外科的治療

 選択的後根切断術、末梢神経縮小術などの脳神経外科的治療や、腱延長術などの整形外科的治療があります。手術部位や手技はそれぞれ異なりますが、いずれも不可逆性です。もちろん手術が必要です。

 5.ボツリヌス療法

 過緊張が認められる筋にボツリヌス毒素製剤を施注します。ボツリヌス毒素製剤は筋の緊張を改善します。作用は局所性で、臨床効果はおおむね2~3日で現れ、1~2週間で安定したのち、3~4か月間程度持続します。他の治療法との併用も可能です。

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 次回はこのボツリヌス療法について詳しくお話します。

月号より