脳卒中について。その16

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その16
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回、脳卒中の危険因子の高血圧についてお話する予定でしたが、前回に引き続き脳卒中の後遺症、特に片麻痺(運動障害)が存在する時のリハビリテーションについて詳しくお話します。高血圧については改めてお話しようと思います。

 1.急性期のリハビリの意義

 脳卒中の回復メカニズムは初期と後期の2段階に分けられます。脳卒中急性期治療は救命措置、機能障害に対する治療、合併症予防、廃用症候群予防が目的と言われていますが、急性期リハビリを導入して早期離床を行うことにより、初期の機能回復を促進して効果的なリハビリにつなげることが可能となります。

 (1)急性期リハビリの実際

 脳卒中急性期は、しばしば意識障害や片麻痺が存在し、安静臥床下で、場合によっては人工呼吸器が装着されたり、点滴、経管栄養、膀胱カテーテルなどの措置が施されたりしているため、ベッドサイドで開始されます。血圧、脈拍、呼吸、体温などのバイタルサインが落ち着いていないと施行できなかったり、他動的訓練が中心となりますが、それでも、状態改善目的に喀痰を出しやすくしたり、呼吸訓練を行うなど、非常に有用になります。関節可動域訓練、嚥下訓練、良肢位保持(ポジショニング)や体位交換なども行います。これらはリハビリスタッフと一緒に看護師も協力しながら実施します。安静が解除されれば座位訓練、起立―着席訓練、ベッドからの車椅子への移乗訓練などを行っていきます。その後、廃用症候群を予防し、日常生活動作(ADL)の早期獲得を目的とするには、十分なリスク管理を行いながら早期に離床することが大切です。ベッド挙上だけでなく、車椅子への移乗を行うことで車椅子トイレでの排泄、洗面所での整容、リハビリ訓練スペースでのリハビリプログラム、さらには装具を用いた早期歩行訓練を施行するなど、どんどん回復が見込めます。麻痺が重度な患者さんのベッドサイドでの端座位訓練、口腔ケアを行い、誤嚥性肺炎、沈下性肺炎の予防を図ります。

 (2)合併症対策

 急性期のリハビリにおいては、高血糖、低栄養、けいれん発作、中枢性高体温、深部静脈血栓症、血圧の変動、不整脈、心不全、誤嚥、麻痺側の無菌性関節炎、褥瘡、消化管出血、尿路感染などの合併症に注意することが勧められています。これらの合併症はリハビリの妨げになり、機能予後に影響するのはもちろんですが、生命の危険にさらされますので、早期に発見して治療を行わなければなりません。

 (3)合併症併発時のリハビリ

 脳卒中急性期には、尿路感染症や肺炎などの呼吸器感染症による発熱を来すことが時々あります。原因を調べ、抗生物質投与などの治療を行いながら、微熱であればベッドサイドでのリハビリを継続しますが、高熱時は患者さんも苦痛を伴いますので、しばらく状態が安定するまで休みます。ただ、安静状態が長く続くと廃用症候群を招いたり、発熱の原因となった病態も改善しないことがあります。肺炎では、安静臥床が病態を余計悪化させてしまうこともあります。その際には、呼吸器リハビリ訓練を行うことで、より適切なポジショニングと喀痰の排出を促す手技を用いて、肺炎の病態改善と廃用症候群の予防に努めます。尿路感染症の場合では、十分な水分補給と抗生物質投与、適度な運動による排尿の促進が病態の改善に効果的です。

 (4)深部静脈血栓症、肺梗塞

 合併症で怖いのが、深部静脈血栓症とそれにより引き起こされる肺梗塞です。これは安静臥床、脱水、カテーテル留置、麻痺側を動かせないことにより、下肢の静脈に血栓(血の塊)ができて、それが心臓に戻り、その後、肺動脈を閉塞させて肺梗塞になり、重症な場合死亡してしまう危険な合併症です。飛行機のエコノミークラスの座席に座り、長時間下肢を動かさずにいると下肢静脈に血栓ができてしまう、いわゆるエコノミークラス症候群です。大震災後、車の中で寝泊まりを長期間続けて発症してしまうことで、一時、トピックにもなりました。過去のデータでは、脳卒中急性期患者の25~75%に深部静脈血栓症が生じ、そのうち10~20%に肺梗塞が生じ、死亡率も10%に達するとされています。危険因子として重度の麻痺、女性、左片麻痺、心不全の合併、脱水や感染症などが挙げられます。予防方法としては、早期離床や下肢の運動、弾性ストッキング着用、間欠的空気圧迫装置の装着、抗凝固療法などを組み合わせて行うことです。

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 次回もリハビリテーションについてお話をします。

10月号より