脳卒中について。その17

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その17
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回も脳卒中になった後に行うリハビリテーション(リハビリ)についてお話します。

1.回復期のリハビリ

 以前にもお話したように、脳卒中のリハビリは急性期、回復期、生活期(維持期)に分けられますが、明確な期間の区別はありません。急性期の救命や病巣の拡大停止、合併症を含めた病状の安定、脳卒中の二次予防がなされた段階になったところで回復期リハビリとなります。後遺障害、特に歩行障害や日常生活動作(ADL)に介助が必要な障害では、時間をかければ障害が改善してくる可能性があります。

2.回復期リハビリの実際

(1)床上起居動作(起き上がり動作)

 寝たきり予防の第一が床上での起き上がり動作です。起き上がり訓練は、背もたれなしのいわゆる端座位が保たれるようになってから開始します。端座位が可能となった後、患者さんは自分の健側上肢でベッド柵かベッドの角をつかみ、健側下肢を麻痺側下肢の下に入れて持ち上げるようにして、ベッドの端から下へ落とし、上半身を起こします。自分でできない場合には介助者が同じような動作を行い、体を完全に横向きにしてから、下肢をベッドから垂らし、介助者は肩と首を支えて起こします。

(2)起立訓練

 椅子やソファから立ち上がる動作は重力に抗しなければならず、姿勢が不安定になり、片麻痺の人には難しい動作です。特に座面が低いソファはより困難になります。ひじ掛けや手すりを利用するのが良いですが、無い場合には、椅子に浅く腰かけて、健側下肢を少し後ろに引き、健側上肢を健側下肢の上に乗せて、お辞儀をするように前かがみになり、起立します。トイレや風呂に手すりを設置するのが安全です。床から起立するのは、下肢の筋力やバランス能力がより必要になります。通常は台などに近づいて、膝を曲げ健側上肢でつかまりながら、あるいは上肢に体重をかけて、膝を伸ばしながら麻痺側下肢を引き寄せるように起立します。自分で起立できない場合には、介護者が介助しますが、負担も大きく、バランスを崩すと対象者も介助者もけがをしてしまう可能性があります。
 なるべく寝具は布団からベッド、食事はちゃぶ台よりはテーブルと椅子といった洋式に生活スタイルを変更しましょう。

(3)移乗動作と車椅子走行

 移乗動作は重心の移動距離が大きいので、転倒しやすいシチュエーションの一つです。移乗ができるようになれば、ポータブルトイレの使用など自立を促進させたり、車椅子で散歩したり、行動範囲が拡大して日々の楽しみも増大します。ベッドから車椅子に移乗する場合は、車椅子のブレーキをしっかりかけて、健側上肢で車椅子のアームをつかみ、起立します。その後、健側下肢を軸にして回転して車椅子に座ります。自分でできない場合には、ベッドを高めに設定して、対象者に車椅子のアームをつかんで体を軽く前に傾けてもらい、介助者は足を広げて軽く膝を曲げて、対象者の腰を支えて立ち上がり、体を回転させてもらいます。車椅子からベッドに移乗する場合には、車椅子のアームをつかみ、健側下肢で起立し、手の位置をベッド柵かベッド上に替えて、やはり体を回転させて座ります。

(4)立位、歩行訓練

 端座位が可能となると、起立、立位、歩行訓練が始められます。弛緩性麻痺から痙性が強くなる時期になると、下肢を支持するのには都合がよくなり、随意性がなくても立位保持が可能となってきます。その際には、下肢装具を装着しての歩行訓練が検討されます。最初は膝折れにも支持性が得られる長下肢装具を用いますが、訓練を積み重ねて、徐々に歩行が安定してくれば、短下肢装具へ到達して、杖を用いた訓練になります(図1)。さらに、平地での歩行が安定した後は屋外、あるいは階段昇降の応用訓練となります。

(5)上肢の訓練

 上肢麻痺については、まず食事動作を可能にすることが目的になります。麻痺側でスプーンを用いてすくう練習をします。その際にスプーンホルダー、曲がるスプーン、あるいは箸を使用する場合には一体型の箸を使用することもあります(図2)。また、利き手でない場合には、スプーンの扱いも不安定になりますので、食べ物を入れる傾いた食器や、食器が滑らないようにするシートを使用するのも食事動作が可能になるために役立ちます。利き手の麻痺が強い場合には、利き手交換の訓練も行います。まず簡単な動作の訓練から始めて、徐々に難易度を上げていきます。上着を着る場合には、麻痺側の袖を通してから、健側上肢で首の後ろで反対側まで引っ張ります。その後、健側上肢の袖を通します。そしてボタンを閉めます。脱ぐときには逆の操作となります(図3)。

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 次回は脳卒中の最大の危険因子になる高血圧についてお話いたします。

11月号より