脳卒中について。その18

 

あなたの笑顔    元気をサポート
 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その18
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中の最大のリスクは高血圧であることは、以前(脳卒中について。その7)にお話しました。では、血圧とは何でしょうか。それは、心臓から押し出された血液が血管の壁に加える圧力のことです。収縮期血圧(最高血圧)は心臓が収縮し、送り出された血液によって動脈壁が最も膨らんだ時の圧力のことを言います。拡張期血圧(最低血圧)は心臓に血液が戻り心臓が拡張し、動脈壁が元に戻った時の圧力のことを言います。高血圧が長く続くと、血管や心臓に無理な力がかかり、血管の壁がダメージを受けて徐々に動脈硬化が進んでいきます。血圧が高くても症状はほとんどありません。これが肝心な点で、症状がないからといって放置していると、実は大変なことになります。「高血圧はサイレントキラー(沈黙の殺人者)」と言われている理由です。

 脳の血管では、細い血管がダメージを受け、小さな瘤(微小動脈瘤)ができます。すると血管の壁がもろくなり、血流も乱れるため、血のかたまり(血栓)ができやすくなり、そこで血栓が詰まるとラクナ梗塞と呼ばれる脳梗塞を起こします。また、そこで血管が切れれば高血圧性脳出血になります。

 一方、脳の太い血管で動脈硬化が起こると、血管の内側に粥状のかたまりができて、動脈が詰まりやすくなり、アテローム血栓性脳梗塞と呼ばれる脳梗塞を引き起こします。また、血圧が高いと心臓の筋肉の細胞自体に負担がかかり、心房細動という不整脈や心不全を起こしやすくなります。心房細動があると、心臓内に血栓ができて、それが脳に飛ぶ心原性脳塞栓症という、後遺症も死亡率も高い脳梗塞を発症しやすいことが知られています。このように、高血圧が長く続くと、脳の血管がある時は詰まり、ある時は切れ、心臓にも悪影響を及ぼし、脳梗塞や脳出血を起こしやすくなるのです。  日本には昔から高血圧の人が多く、脳の小さな血管で起きるラクナ梗塞や脳出血が多いという特徴がありましたが、最近では、心臓から血液を送る大動脈や、大動脈からの血液を脳に送る頸動脈など太い血管の動脈硬化によって起こるアテローム血栓性脳梗塞、心臓にできた血栓が原因で起こる心原性脳塞栓症が増えています。

高血圧者は脳卒中・心筋梗塞によるイベント発症率が高い

 有名な福岡県久山町研究では、血圧が高い時代は脳卒中のイベント発症率が高率でしたが、血圧が下がるに従い脳卒中のイベント発症率は下がります(図1)。血圧はいくつ以上から脳卒中が起こりやすいという値はありません。高ければ高いほど脳卒中は確実に起こりやすくなります。以前にもお話したように、高血圧の目標設定は、年齢や病気の有無によって変わりますが、基準と降圧薬の開始基準については、従来の140/90以上とする一方、降圧目標は75歳未満の方や脳血管障害患者(脳主幹動脈の狭窄、閉塞がない方)、冠動脈疾患患者、慢性腎機能障害患者(CKD)で尿蛋白が陽性、糖尿病のある方、抗血栓薬内服中の患者などは原則、診察室で130/80未満、家庭血圧では125/75未満です。これは、かなり厳格な基準と言えるかと思います。一方、75歳以上の方、脳血管障害患者(脳主幹動脈に狭窄、閉塞のある患者)やCKD(蛋白尿陰性)の方の降圧目標は、診察室で140/90未満、家庭血圧で135/85未満となっています(図2)。

高血圧の原因(図3)

 高血圧の原因は約9割が原因不明の本態性高血圧ですが、図にあるようなことが誘因となります。ほとんどが生活習慣に注意していれば、ある程度は改善できるものばかりです。特に、毎日の食事に含まれる塩分の過剰摂取が高血圧を引き起こすことが現代でも起きています。「たかが高血圧ぐらい」と考えがちですが、放置すると脳血管障害が起こりやすくなります。また『血圧が高いほうが体調は良い』という方がいます。降圧剤を内服当初、急激に血圧を下げると、確かに体がついていかないため体調不良を訴えることがあります。かかりつけ医と相談して、ゆっくり血圧を下げるようにしましょう。高血圧を放置すると取り返しのつかない状態になってしまいます。病気が発症してからでは遅いです。血圧を下げて、病気の予防に心掛けましょう。皆さんも家庭血圧が目標血圧になっているか、起床してトイレを済ませた後で薬を内服する前と就寝前の1日2回、血圧を測定して血圧手帳に記録しておき、かかりつけ医を受診する際に持参して、よく相談してみましょう。

   ◆   ◆   ◆  

 次回は脳卒中の危険因子として次に怖い糖尿病についてお話します。

12月号より