脳卒中について。その32

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その31
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回は前回お話した心房細動についての続きです。

 1.心房細動の頻度は?自然経過は?

 心房細動の有病率は年齢と共に増加し、日本人で80歳以上の高齢者で、男性が4・43%、女性が2・19%と報告されています。ただし、京都市伏見区の調査(京都伏見心房細動患者登録研究)では、伏見区28万人の人口でみると、有病率は1.4%(男性7.1%、女性1.1%)、70代では6・0%(男性10.5%、女性3.4%)、80歳以上では、7.6%(男性10.5%、女性6.4%)というデータもあり、先ほどのデータよりも有病率が高くなります。
 近年は人口の高齢化が進むにつれて患者さんの数も増加の一途をたどっています。2030年には100万人を超えると予想されております(図1)。以前はリウマチ性弁膜症を背景にした心房細動が多くみられましたが、現在はむしろそうした症例は少数で、高血圧、糖尿病などを主とした生活習慣病を背景とした心房細動が大半を占めるようになりました。
 心房細動はその持続時間に応じて、「初発心房細動」、「発作性心房細動」、「持続性心房細動」、「永続性心房細動」に分類されます。目の前の患者さんがどれに分類されるのかは、厳密に区別することは困難ですが、一般的、長期的には、心房細動は発症後やがて自然に止まりますが、何度か繰り返しているうちに、次第に持続時間や頻度が増大し、最終的には停止しなくなるという自然歴をとると考えられております。発作性心房細動は年率5・0~8・6%で慢性化し、5年で25%が永続性心房細動に移行するとされています。高齢者であればあれほど、初診時に永続性心房細動である確率は高くなります(図2)。

 2.心房細動の危険因子

 心房細動を長期的に考えますと、危険因子がありますので、もし背景に危険因子がある場合にはその病態の是正・治療を忘れてはいけません。危険因子は、年齢、高血圧、糖尿病、心不全、心筋梗塞などが挙げられており、多彩な因子が関与しております。また、慢性化の因子としては、年齢、弁膜疾患、心筋梗塞、心筋症、左心房拡大が挙げられます。つまり、これらの背景因子の厳密なコントロールが大切であり、予後を改善させる近道になるのです。その一方、心房細動を持つ人は前回にもお話したように、脳卒中になるリスクが高く、心房細動を持っていない人に比べて発症頻度が4.8倍高くなります。

 3.心房細動の治療

 心房細動の治療の話に移ります。心房細動は先ほど述べたように糖尿病や高血圧などのさまざまな合併症を背景に生じることが多いとされます。ですから、こうした要素がある場合は心房細動より先にもともとの原因を治療するのが前提です。背景疾患をケアした上で心房細動に対する治療を考える場合には、次の3つがあります。

 ①抗不整脈薬を用いた治療(薬物療法)
 ②抗血栓療法
 ③心房細動アブレーション(カテーテルアブレーション)

 ①抗不整脈薬を用いた治療(薬物療法)

 心房細動で生じる動悸(心悸亢進)や胸部不快感、先に述べた心不全の予防のために薬で治療が行われることがあり、主に抗不整脈薬というグループの薬物が用いられます。これらはそもそも発作的に生じる心房細動自体を起こさなくしようとする予防治療薬(リズム・コントロール)や心房細動になっても心拍数があまり早くならないようにする(レート・コントロール)薬物が用いられます。
 抗不整脈薬には多数の種類がありますが、その効果は実は完全ではありません。薬物によるリズム・コントロールは、レート・コントロールだけで治療した場合と比べて、生命予後を改善しないということが明らかとなっております。そして、薬を服用していても十分に心房細動の勢いをコントロールできないことが分かっています。心房細動にはもともと薬が効きづらく、また、一時的には心房細動を抑えるのに有効であっても、時間経過とともにその効果が弱まってしまう現象も知られています。
 また、不整脈薬には心臓および全身に副作用を生じやすい傾向もあり、医師の慎重な経過観察の下に使用する必要があります。高齢者の場合、慢性心房細動の方は、心拍数が多いと動悸がしたり、心不全をきたすことがあるので、心拍数が100/分以下を目指してレート・コントロールをすれば、症状の改善を得やすくなると考えられます。

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 次回は治療の続きの②抗血栓療法と、③心房細動アブレーション(カテーテルアブレーション)についてお話します。

月号より