脳卒中について。その33

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その33
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回も前回お話した心房細動の治療についての続きです。

 1.心房細動が原因の脳梗塞

 心房細動の治療の前に、心房細動が引き起こす脳梗塞について再度お話します。心房細動時には心房が細かく動くだけで、十分な収縮ができません。そのため、そこで血液がよどみ、血栓(血液の固まり)ができて、それが脳や手足、その他、大事な臓器に飛んでいって血管が詰まる(脳であれば脳梗塞になる)ことがあります。これを塞栓(そくせん)症と言います。
 心房細動が原因で起こる脳梗塞は、その他のタイプの脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞)などに比べて、突然太い動脈が詰まるため、脳梗塞を起こす範囲が広く、重症で時に生命の危機に陥ります。一命をとりとめても、手足の運動麻痺(まひ)や意識障害、言語障害などの重篤な後遺症が残ることもあります。また、心原性脳梗塞の患者の5年生存率は非常に低いこともわかっています。そのため、心房細動の患者は、脳梗塞を含め全身塞栓症を予防することが最も大切なことになります。
 現在、心房細動患者に対して脳梗塞発症リスクを評価するスコアとして提唱されているものに、CHADS2(チャッズ・ツー)スコアがあります。
 これは、心房細動による脳梗塞発症に関連する5つの危険因子の頭文字[Congestive heart failure/LV dysfunction(心不全/左室機能不全)、Hypertension (高血圧症)、Age(年齢75歳以上)、Diabetes mellitus(糖尿病)、Stroke/TIA(脳梗塞、一過性脳虚血発作の既往)]から命名されました。各危険因子に1点あるいは2点が付与され、その合計点数が高いほど脳梗塞の発症リスクは高くなります。
CHADS2スコアは、心房細動患者における脳梗塞発症リスクの評価に有用性が認められています(図1)。

 2.心房細動に対する抗凝固療法  心房細動による脳梗塞は、心臓内に血栓が形成されないようにする薬を内服することで、予防することができます。これを抗凝固療法と言い、そのための薬物を抗凝固薬と言います。
 以前、抗凝固薬は納豆を食べると効果が弱まる「ワルファリン」しかありませんでした。ワルファリンは納豆、緑黄色野菜を代表とするように食べ物や他の薬物との相互作用が多く、その効果が弱いと脳梗塞の危険に陥ったり、逆に効果が強すぎると出血してしまったりするという欠点があります。また、その効果に個人差があったり、効果が一定しないことがあるため、頻繁に血液検査を行って、薬の効果を調べたりしなければなりません。
 近年、ワルファリンに加えて、「直接経口抗凝固剤(DOAC)」が登場し、治療の選択肢が増えました。さらに2020年に日本循環器学会から出された不整脈薬物療法のガイドラインでは、機械弁や僧帽弁狭窄症以外で、CHADS2スコアが1以上であれば、DOACを使用することが推奨されています(図2)。
 DOACはワルファリンと違い①内服開始から効果が発揮される②半減期が短いため手術などによる休薬期間が短くて済む③食事制限が不要④投与量の調整が不要で、安定した効果が発揮される⑤開始後しばらくは頻繁に血液検査が必要であるが、安定すれば毎回の採血検査が不要―などの特徴があります。さらに脳梗塞の予防効果はワルファリンと変わらず、一方で大出血や脳出血の危険性はワルファリンより低いというメリットがあります。
 現在、ワルファリンを飲んできちんとコントロールされている人は、あえてDOACに変更する必要はありません。肝臓や腎臓の機能、かかっている病気により治療薬が選択されます。まず、抗凝固療法が必要かどうか、そして内服するならどのような薬剤が良いのかを主治医とよく相談してください。DOACが適しているのは①比較的年齢が若い②腎機能が悪くない③毎日きちんと内服できる人―ということになります。ただ、薬の値段がワルファリンより高い欠点があります。

 3.抗凝固療法の副作用

 抗凝固療法は血栓を作らないという意味で心房細動による脳梗塞を予防する上では、欠かせない治療法となりましたが、出血の危険性があります。ワルファリンは前述したように、その他の薬物や食べ物により効果が影響されますので、効果の程度を調べるため頻繁に血液検査が必要になります。
 DOACはその効果がすぐに発揮され、およそ半日から1日で効果がほぼ消失するため、効果を見るために投与量の調節は必要ないという特徴があります。一方、効果を正確に表す血液中の指標がないため、作用が強すぎた場合にそれがわかりにくいという懸念もありますが、一般にはワルファリンより出血性合併症は約半分といわれています。抗凝固薬を内服している際に、検査や手術を受けなければならない場合があります。その時に、内服を中止したらよいのか、そのまま継続できるのか、主治医に相談してください。

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 次回も心房細動の治療についてお話します。

月号より