脳卒中について。その38 【第4のリスク】喫煙その4

 
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。

 前回は脳卒中の第4のリスクの喫煙とがんの関係についてお話ししました。今回は、喫煙のリスクをいかに減らすかについて、国立がん研究センターや厚生労働省からの記事を参考にお話しします。

1.たばこを吸う人の割合

 習慣的にたばこを吸う人の割合(喫煙率)は、この約50年で低下傾向にありますが、最近は下げ止まり傾向になっています。2019年の全国データでの喫煙率は、男性27・1%、女性7・6%、男女計16・7%です。また、男性喫煙者の27・2%、女性喫煙者の25・2%が加熱式たばこを吸い、また、20代から30代の喫煙者の30~50%が加熱式たばこを吸っているそうです。

 1日21本以上たばこを吸う重度喫煙者は男性が11・2%、女性が2・8%、2003年以降は重度喫煙者が減少して、軽度喫煙者(1日1~10本)が増加しています。都道府県別では、福島県は男性の喫煙率が全国5番目、女性は全国3番目、男女合わせて全国3番目に高いというデータが出ています。

2.たばこの依存症

 ⑴ ニコチン依存症

 ニコチンには依存性があり、たばこ使用時に依存を生じる主となる原因となっています。ニコチンは中枢神経系のうちドパミンを介する脳内報酬系に作用するとされています。ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質の分泌がニコチン摂取で増加して、気持ちいい、おいしいという気分になります。

 ニコチンは、口腔内粘膜や皮膚からも吸収される極めて吸収性の良い物質で、煙を吸い込んで数秒以内に脳細胞に達します。定期的にニコチン摂取を繰り返すと、ある時期以降には脳細胞は喫煙してニコチンを吸収することで、ようやく以前と同レベルの活動を維持するようになります。これが「ニコチン中毒」「ニコチン依存」と呼ばれている状態です。

 ニコチンは吸収が速く、体内から消失するのも速いため、常習喫煙者では喫煙後数分程度でニコチン切れ症状が出て、「次の1本」の願望を生じるようになります。ニコチン依存の喫煙者は、ニコチンの血中濃度が最適になるようにたばこを吸う頻度と深さを調節し、精神的効果を得るとともに、ニコチン離脱症状を避けています。

 ニコチン依存は①周りからの影響を受けて喫煙を開始する②ニコチンのドパミン系への直接影響によって喫煙を続ける③離脱症状軽減のために喫煙を続けざるを得ない―の3段階を経て喫煙開始後数年で形成されると考えられてきました。成人では喫煙後5年から10年でこうした状況が形成され、その結果喫煙者はほぼ毎日喫煙するようになるといわれています。

 ⑵ 心理的依存

 いつも喫煙していた場面、他人の喫煙シーン、困難に遭遇したときなどに喫煙要求が高まる状態を指すもので、喫煙でいいことがあった体験の積み重ねが、心理的な条件反射を強化します。経験や記憶によるところが大きく、喫煙年数が長いほど強固です。この心理的依存によっていったん禁煙したものの、さまざまなストレス場面で容易に喫煙が再開されることが多く観察され、心理的依存への対処には、さまざまな行動変容理論の応用が必要となります。

3.禁煙治療

 2006年から禁煙治療に健康保険が適用されるようになりました。施設基準を満たした施設で、患者基準を満たす患者に対し、12週間に5回の禁煙治療に健康保険が適用されます。禁煙治療は貼り薬や飲み薬を使って、ご自分でされるよりもずっと楽にそして確実に禁煙できる方法です。

 禁煙治療を受けることのできる人

 以下の要件をすべて満たした人のみ、禁煙治療に健康保険が適用されます。

1.ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)で5点以上、ニコチン依存症と診断された人(図1

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2.35歳以上の場合、ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の人(図2

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3.直ちに禁煙することを希望する人

4.「禁煙治療のための標準手順書」に則った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文書により同意した人

 禁煙治療の内容

 健康保険を使った標準禁煙治療では、以下のような内容の治療を受けることができます。

1.ニコチン依存度の判定(問診などによってどれだけニコチンに依存しているか判定します)

2.呼気一酸化炭素濃度測定(吐く息がたばこによってどのくらい汚れているか検査します)

3.ニコチン依存度に合わせた処方(状況によって貼り薬や飲み薬を処方します)

4.禁煙に対するアドバイス(禁煙を楽にできるためのコツを伝えたり、禁煙に対する思いや不安を聴取したりします。施 設によっては専任の看護師がカウンセリングを行います)  禁煙治療を受診するためには、禁煙治療を実施している施設を探しましょう。受診には予約が必要であることが多いので注意が必要です。

月号より