脳卒中について。その41 【第5のリスク】 アルコール依存症

 
 公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 アルコールを飲みすぎないことは脳卒中の予防になることは前々回お話ししました。今回も、脳卒中から離れて、アルコールと脳との関係、とりわけアルコール依存症についてお話しします。

 1.アルコール依存症の症状(図1)

 アルコール依存症とは、長期間にわたって繰り返しアルコールを大量に摂取し続けることによって、アルコールを摂取しないといられなくなる状態に陥る精神疾患をいいます。現在、日本では約80万人以上がアルコール依存症にかかっていると推定されています。

 アルコールは適量の摂取であれば、深刻な健康被害を起こすことはありません。飲むアルコール(エチルアルコール)は麻薬、覚せい剤、睡眠薬やたばこと同じ依存性のある薬物の一種です。エチルアルコールという依存性のある薬物を大量に摂取し続けると脳の神経細胞の性質や仕組みが変化して、アルコールを猛烈に欲しくなります。単に、個人の性格や意思の問題ではなく、精神疾患の一つになっています。症状としては精神依存と身体依存とがあります。

アルコール依存症の主な特徴

 【精神依存】
 習慣的に飲酒しているとまず、耐性が形成されます。耐性とは、同じ量の飲酒でもあまり効かなくなってくることです。いわゆる酒に強くなってきた状態で、少量の飲酒ではあまり効果がなくなり、同じ効果を求めて徐々に飲酒量が増加していきます。そして精神依存という症状が現れます。

 精神依存とは簡単にいえば、飲酒したいという強烈な欲求(渇望)が沸き起こることです。酒が無いと物足りなくなり、飲みたいという欲求を感じるようになります。さらに精神依存が強くなった場合、酒が切れると、家の中で酒を探したり、わざわざ外出して酒を買いに行ったりするような行動に出ます。飲酒のコントロールが効かず、節酒ができない、飲酒以外の娯楽を無視し、精神的身体的症状が出現しているにもかかわらず、断酒ができないなどの症状が出てきます。

 【身体依存】
 前述の耐性・精神依存が形成され、長年ある程度の量を飲酒していると、しまいには身体依存が出現します。身体依存とは、文字通り酒が切れると身体の症状が出ることで、酒をやめたり減らしたりしたときに、離脱症状と呼ばれる症状が出現するようになります。

 代表的な離脱症状としては、不眠・発汗・手のふるえ・血圧の上昇・不安・いらいら感などがあり、重症の場合は幻覚が見えたり、けいれん発作を起こしたりすることもあります。酒をやめるとこのような症状が出現してしまうので、症状を止めるためにまた飲酒するという悪循環となり、ますます酒をやめることが難しくなります。

 なかには肝障害を起こしたり、朝から飲酒したり、仕事をしながら隠れて飲酒するなど社会生活に支障をきたしたり、家族内での信用を失い、関係がぎくしゃくするなど家庭生活にも大きな影響を及ぼすこともあります。酒に酔って周囲に迷惑をかけ問題を起こす人がいますが、それは酒乱であり、アルコール依存症とは違います。アルコール依存症の人はむしろ静かに飲んでいることが多いようです。図2にWHOが出している診断基準を示します。1年以内に6項目中3項目以上あれば、該当します。

アルコール依存症の診断基準

 2.アルコール依存症への対応

 アルコール依存症から回復するために最もよい方法は、断酒、つまり一滴もアルコールを飲まないことです。軽度の依存症者や中間的な目標として「減酒」が目標とされることもありますが、断酒が最も安全で確実な方法であることには変わりありません。

 断酒とは、ずっと酒を一滴も飲まないことです。「飲みすぎたのがいけないのだから酒の量を減らせばいいのではないか」「たまに飲むくらいならいいのでは」と考える方が多いのですが、アルコール依存症とは、飲酒がコントロールできない病気です。コントロールできないのに、量や回数を減らそうとすると、最初は量が減っているつもりでも、しばらく経つうちにまた元の飲み方に戻ってしまう結果になることが非常に多いです。

 3.アルコール依存症の治療

 アルコール依存症の治療は補助的に薬物療法も用いられますが、治療の中心となるのは、アルコール依存症の専門的な治療を行っている医療機関への受診や、集団精神療法、同じアルコール依存症を抱える人たちの自助グループに参加することです。自分の意思だけに頼ってやめようとするのは、なかなかうまくはいきません。

 短期的に断酒することは比較的容易ですが、再発しやすいのが特徴で、再度飲酒となった場合には、すぐに断酒前の問題ある飲酒パターンに戻ってしまう傾向があります。したがって、断酒を継続するためには長期的アフターケア、特に自助グループへの継続的な参加などが必要です。