「らぶ」にバトンタッチ 会津鉄道芦ノ牧温泉駅長・小林美智子さん<5>

 
列車のお見送りをするばすとらぶ(右)。らぶはばすと一緒に働きながら、駅長の仕事を覚えていた

 「ばす」が初代名誉駅長になって6年がたった2014(平成26)年6月。2代目駅長にするため、知人を通じて譲り受けたのが「らぶ」だった。

 この時ばすは推定17歳で、人間で言えば80代。目が見えなくなり、待合室で寝ていることが多くなっていた。

 新しい駅長候補を探していた時、知人からアメリカンカールのネコの写真を数枚見せられた。私はその中から「この子がいい!」と1匹を選んだ。「ハチワレ」と呼ばれる、八の字のような模様が入った額に一目ぼれした。その数週間後、駅にやって来たネコは写真で見たよりも、さらにかわいかった。

 おばあちゃんになったばすを守ってほしい―。そんな願いを込めて「あい・らぶ・ばす」から「らぶ」と名付けた。

 生後わずか2カ月で駅にやって来たらぶは、ばすを実の親だと思っていたようだ。ばすの後ろを付いて歩いている姿をよく見た。ただ目の見えないばすにとって、らぶは未知の存在。らぶが後ろから覆いかぶさったり、顔をなでたりしてちょっかいを出すと、ばすは「シャー」と威嚇していた。

 ただ不思議なことに、待合室で寝てばかりいたばすが、らぶが来てから駅長の仕事を張り切るようになった。実の子のようにかわいがっていたらぶに、駅長の役割を伝えようとしていたのかもしれない。列車が到着した音が聞こえるとホームに出て、お見送りをしていた。目が見えなくても、頭でベンチの高さを確認して飛び乗っていた。

 らぶは、そんなばすの姿を見て、まねをしながら列車のお見送りや駅の巡回といった駅長の仕事を覚えていった。

 駅に来て1年半になる15年12月、らぶは2代目名誉駅長に就任した。約7年8カ月の駅長業務を終えたばすには「初代ご長寿あっぱれ名誉駅長」の称号が贈られた。

 立派な後継ぎができて安心したのだろう。その4カ月後、ばすは天国へ旅立った。(聞き手 高崎慎也)