事故で判明、驚きの事実 会津鉄道芦ノ牧温泉駅長・小林美智子さん<7>

 
ばすから名誉駅長を引き継ぎ、辞令交付式に臨んだらぶ(左)。この時、らぶが雄だったことを発表した

 「らぶ」は好奇心旺盛で、いたずらっ子だった。生後2カ月で駅に来たので、見るもの全てが新鮮だったのだろう。少し目を離すと、草を食べていたり、木登りをしたりしていた。

 らぶが2代目名誉駅長になる10カ月前、2015(平成27)年2月のことだ。そのやんちゃさが災いし、列車にはねられた。スズメを追いかけ線路に入り、逃げ遅れたようだ。

 私は大慌てで、すぐに会津若松市内のかかりつけの動物病院に電話したが、どんなけがをしたか聞かれても、まだ答えられない。「いったん落ち着いて。状況が分かったら、また電話してください」と言われた。

 その病院に連れて行くと右脚の骨折だけだと分かったが、「いずれ駅長になるネコだから、腕が良い先生に手術してもらった方がいいよ」と栃木県の動物病院を紹介された。市内の病院に1晩入院して翌朝、車で2時間かけて栃木の病院へ。その間、らぶはずっと静かにうつむいていた。「とんでもないことをしてしまった」と反省しているように見えた。

 到着後の検査で、驚いたことがあった。雌だと思って育ててきたらぶに停留精巣が見つかった。実は雄だったのだ。

 停留精巣は放っておくと、がんになる可能性がある。事故がなければ、命の危険があったかもしれない。それが1週間の入院で済んだ。「不幸中の幸いだ」と私はほっとした。でも、この時以来らぶは医者嫌いになった。

 らぶが雄だと分かると、今度は会津鉄道が大慌て。「もう雌だと発表しちゃったから、内緒にしておこう」と言う人もいたくらいだ。

 「内緒にはできない」と思っても、訂正する機会もない。12月24日までそのまま時は流れ、ばすとの駅長交代を発表する文章に「実は雄でした」と、しれっと書いた。

 すると、駅長交代を取り上げたテレビ番組で「ウッチャンナンチャン」の南原清隆さんが「雄でも雌でも、かわいいんだから、どっちでもいいじゃないですか」と言ってくれた。このひと言に、みんな救われた。(聞き手 高崎慎也)