南相馬出身 デジタルマーケティング会社社長・椙原健さん
「ローカルビジネスの活性化が地域を元気にする」。大手企業が集まる東京・港区で、椙原健さん(46)=南相馬市原町区出身=は地域経済の振興に挑んでいる。ローカルビジネスは飲食店や美容室、宿泊施設など地域に根差した店舗型事業者の総称で、全国に134万店舗あるとされる。全ての店舗で集客が1日に1組増えれば年間5兆円の経済効果を生む―。そんな試算もある日本経済の成長を支える市場を舞台に、本県を含む顧客の集客力の向上を目指してマーケティング(市場戦略)支援に取り組む。
古里の商店街が原点
椙原さんは、南相馬市原町区の商店街がにぎわいを失っていく光景を見て育ったという。東日本大震災で古里が大きな被害を受けたことで地域振興への思いがより強くなった。一時は政治家として貢献する道も考えたが、「さまざまなしがらみのある政治の世界で志を貫くのは難しい」と判断。デジタル技術を強みとしたマーケティングで地域を支えようと2011(平成23)年10月に起業した。
「インスタグラムの活用など消費者の店を探す手法は多様化しているが、店側が追い付いていない」。椙原さんは人材が豊富な大手企業と比べ、ローカルビジネス業界はウェブや交流サイト(SNS)などを活用したマーケティングが不得手だと指摘。主力サービスとして、近隣エリアの消費者ニーズの把握や広告の自動配信、ホームページ作成など、専門知識がなくてもデジタルマーケティングに取り組める独自のシステムを提供している。
危機に真価問われた
順調に業績を伸ばしたが、会社が存続の危機に立たされた時期もあった。国内で新型コロナウイルスの感染拡大が始まった20年1月以降、当時の顧客の9割以上を占めていた飲食店が打撃を受けたことで、業績が悪化し赤字に転落した。「今こそローカルビジネスを救おう」。奮起を促す標語を社内のあらゆる場所に掲示した。美容業界でも自社サービスの強みを生かせると考え、顧客の獲得に動いた。21年9月期には過去最高益を更新し、同12月に新興企業向けの東証マザーズ(現グロース市場)に上場した。椙原さんは「顧客が壊滅的な被害を受けている時だからこそ社の真価と使命が問われた」と振り返った。
子どもの成長支える
本県との関わりも持ち続けてきた。震災の被災者を支援するNPO法人の活動に参加し、資金援助や、社員と共にボランティアとして本県を含む被災地の児童養護施設の子どもたちの成長を支えてきた。本県に愛着が湧いた社員の一人は会社に在籍したまま浪江町に移住したという。図らずも被災地への「転職なき移住」の推進につながった。
今も2カ月に1回ほど実家のある南相馬市を訪れる。「原町を元気にしたい」との初心は忘れていない。復興をさらに前に進めるためには「産業の育成と成長が必要だ」と感じている。「産業を興すのは起業家。応援できたらと思う」。椙原さんは、新しい産業が次々に誕生する光景を思い描きながら古里に寄り添い続けると誓う。
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すぎのはら・たけし 南相馬市原町区出身。原町高、日大商学部卒。東京都内でIT関連企業に勤務した後、2011年10月にデジタルマーケティング会社「CS―C」を設立し社長に就任。正社員約170人を含むスタッフ約200人体制でローカルビジネスの発展に力を注いでいる。