東京電力福島第1原発からの処理水海洋放出を巡り、岸田文雄首相は24日、いわき市で県漁連の野崎哲会長と意見交換し、処理水の処分完了まで風評対策や漁業継続支援に責任を持って取り組むとした放出開始時の約束について「考えはいささかも変わっていない」と述べ、改めて政府として必要な支援に一丸で取り組む考えを示した。その上で漁業復興に向けた必要な支援の継続や、中国による日本産水産物の輸入停止措置を踏まえた新たな経済対策を検討する方針を明らかにした。
首相は、処理水の海洋放出開始から1年の節目に合わせていわき市の小名浜魚市場を視察した。野崎氏との意見交換では、25日に8回目の海洋放出が終了を予定する処理水について海水モニタリングなどで「安全が確認されている」とし、輸入規制を継続する中国に対しては政府としてあらゆる機会を通じて即時撤廃を求めるほか、科学的知見に基づく透明性の高い情報発信や専門家同士の対話などで理解を深めていく考えを示した。
輸入規制を踏まえた新たな対策は週内にも関係閣僚会議を開催して方向性を示す方針で、秋にも策定する見通しの経済対策に盛り込む。県漁連などが進める本格操業移行に向け、重要な位置付けとなっている国の漁業復興支援事業については、野崎氏からの要望を受ける形で「政府として引き続きしっかり支援していく」と語った。
また全国的に地球温暖化の影響で水揚げされる魚種が変化している現状などを踏まえ、漁船や養殖施設の導入支援拡大や漁業共済制度の拡充に向けた法改正を検討することも表明。漁村の活性化に向けた新たな支援制度を創出する考えも示した。
デブリ作業ミス「重く受け止め」
岸田文雄首相は視察後の記者団の取材に、東京電力福島第1原発2号機からの溶け落ちた核燃料(デブリ)の試験的取り出しが作業初日にミスで中断したことについて「重く受け止めている」と語った。
取り出し作業の中断を巡っては、23日に斎藤健経済産業相が東電の小早川智明社長に対して原因究明や必要な対策を講じるよう指示している。首相はデブリ取り出しに着手できれば原発廃炉は新たな段階に入るとの認識を示した上で「引き続き、国が前面に立って福島復興の前提となる原発の着実な廃炉に取り組んでいく」と述べた。
視察後に開かれた自民党県連との車座対話でも県連側が首相に再発防止を求めた。