台風の圧倒的なエネルギーを、どうにか利用できないだろうか。こんなことを考える人はいるものだ。あるとき、友人ととりとめもなく風の話をしていた俳人の坪内稔典さんは、台風で電気を起こせないかと夢想する
▼台風電力株式会社をつくり、台風の力を電気に換え蓄えられる電池を進路に置いておく。日本に接近する頃にはエネルギーをすっかり抜き取られ、きっとそよ風になっている―と話は弾む。渇水状態になっても困るので、水部門の組織を設けることまで話は進む(「ヒマ道楽」岩波書店)
▼奇想天外な発想もあながち夢物語と言い切れないかもしれない。2050年を目標に、台風を制御して一部をエネルギーとして取り出すことを目指す産学合同のプロジェクトがある。脅威を恵みに変える壮大な構想だ
▼二百十日を前に台風10号が日本に接近している。暴風や土砂災害、河川の増水などに厳重な警戒が必要で、新幹線の計画運休も想定されている。当初の予想から進路が変わり東北への影響も気がかりだ
▼意思があるかのように、ときに意表を突く進み方をする台風は、風と気圧の影響で動く。手なずけるのはまだ先としても、せめて正確な進路を予測できないものか。