気候や環境の変化は、農業の在り方を大きく左右する。60歳を超えてから大学院に通って知見を広げ、その変化に対応しようとする農業者が県内にいる。
「今までの常識では、これからの農業はやっていけない」。みうらふぁみりー農園(南相馬市)代表の三浦広志(64)は表情を引き締める。農業に携わって40年以上。さまざまな経験をし、そう思うようになった。
三浦は大学を卒業後、南相馬市でコメ作りに励んだ。「農業はいいぞ」。コメ作りをしていた父親の言葉にも後押しされた。
できる限り農薬を使わない方法を模索。法人を設立して首都圏で販路を開拓した。農地も当初の2倍以上に拡大。夢中で走っていたところ、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起き、都内に避難した。
息子の思い成就
「ここ(南相馬市)で農業を続けていくことはできない」。農業を辞めることも頭に浮かんだ。それでも仲間の農業を続けていく思いなどを聞いて奮起。農業ができる環境を整えるため、国などとさまざまな交渉を続けた。農業を希望する息子の思いをかなえようと、2012年に農地を借りた新地町でコメ作りを開始。太陽光発電にも取り組み、昨年から南相馬市でコメ作りを再開させている。「原発事故で以前との連続性がなくなった。新しく作っていくしかない」
地球環境に配慮
そんな中、土を耕さない農法があることを知った。土を耕さないことで土壌環境が良くなり、地球環境にも良いという。「農業は土を耕すことだと思ってやってきたが、説明を聞いて納得した。一から勉強し直そう」。大学教授の誘いを受け、昨年4月に63歳で福島大大学院に入学し、農業や土壌環境などを学んでいる。「最新の研究を知ることで、自分に何ができるか明確になった」と言う。
近年は気候の変化が著しく、猛暑だった昨年は、育てたコメの中に「白未熟粒」もあった。「気候変動と向き合っていかなければならないし、それをどう利用するか。そこが重要ではないか」。変化を受け入れ、柔軟に対応する必要性を感じている。
これまでの常識が通用せず、転換期ともいえる今、三浦は思いを新たにする。「農家は自然科学の探究者。生態系や気象などを知った上で農業をしていくべきではないか。『農業で生きていく』と決めた原点を崩さず、全うしたい」(文中敬称略)