福島県南相馬市原町区の障害者支援施設「原町共生授産園」で、当時職員だった男が40代男性入所者に暴行を加え、けがを負わせる虐待行為をしていたことが3日、捜査関係者らへの取材で分かった。地検相馬支部は同日までに傷害罪でいわき市小名浜字芳浜、元職員、会社員の男(24)を在宅起訴。地裁相馬支部(岩田真吾裁判官)で同日、初公判が開かれ、被告は起訴内容を認め、検察側は懲役1年6月を求刑して即日結審した。
「暴行は常習的」 懲役1年6月求刑
起訴状によると、被告は今年3月17日午前2時半ごろ、施設内で男性入所者の左太ももを左足で蹴り、動脈の損傷など加療約4週間のけがを負わせた、としている。
検察側の冒頭陳述や証拠調べによると、被告は仕事の多忙さや上司との関係悪化、知的障害があった入所者とのやりとりにいら立ちを募らせ、22年4月ごろから月1回程度、男性の腹や背中を殴る暴力を振るっていたと指摘した。
その上で、事件当日は「着替えたい」と懇願する男性の太ももを全力で蹴り上げたとした。当日は退職を決めていた被告の最後の勤務日だった。
被告は県内の短大を卒業後、主に児童を対象とした障害者支援施設で勤務したが、児童への暴言などを理由に2021年4月に系列の原町共生授産園に異動していた。
被告人質問で被告は「自分の感情が抑えられず、一時の感情でけがを負わせて申し訳ない」と述べた。
検察は論告で、抵抗できず、逃げ出せない男性に対して「介助者という立場で一方的に暴行するなど卑劣極まりない」と指摘。その上で「暴行は常習的で犯意は極めて強固」とした。弁護側は施設から懲戒処分を受けているなどとし、執行猶予付きの判決を求めた。判決公判は20日午前11時半から。
施設長「把握できず」
原町共生授産園の施設長は取材に対し、被告への聞き取りで入所者への暴力が発覚するまで、長期的に虐待が行われていたことを把握できていなかったと説明した。
その上で「今後、家族に謝罪をしたい。業務内容の見直しや職員教育を行い、二度とこのようなことが起きないようにしたい」と述べた。
今回の事件を受け、県は今年春に同施設で立ち入り調査と書類調査をしており、内容を踏まえて処分を検討していく方針。南相馬市は今年3月21日に事件を把握し、4月中旬に県に報告したという。
被害者の母「被告が担当後、あざ」
被害者参加制度を利用して公判に出廷した男性入所者の母親は「もっと早く気付くことができなかったのか」と自問し、「命を預かる責任はなかったのか」と被告に問いかけた。
公判後、男性の母親と妹は報道陣の取材に応じ、障害のある児童に対する被告の暴言などを把握しながら、障害者に接する業務を続けさせた施設側に疑問を呈した。母親は「このまま、うやむやにしておきたくない」と述べ、民事提訴も視野に施設側の責任も追及する考えを示した。
母親らによると、男性は10年余り前に原町共生授産園に入所。月1回、南相馬市の自宅に戻っていた。被告が男性を担当してから、腕や脚にあざなどのけがを見つけるようになったといい、昨年9月には施設であごの骨を折った。家族はけがの原因について施設側に説明を求めたが、納得できる回答は得られなかったという。1、2年前からは、男性が自宅に戻った際に「(施設に)帰りたくない」と話すようになったという。家族が男性の体に触れようとすると、怖がったり、怒ったりしていたといい、妹は「今思えば、何かされて、怖いことがあったのかな」と話した。
男性は被告による暴行を受けて入院し、退院した2日後の今年4月14日、家族で花見に出かけた際に食べ物を喉に詰まらせ、死亡した。