二本松市で和牛を繁殖している菅野英也(66)は6月、成長した牛に市販の餌を与えていた。餌にはカシューナッツ殻液が配合されている。「ほかの製品より高いけど、発育がいいと勧められた。だいぶ前から使っているよ」
牛の餌は近年、地球温暖化対策の観点から注目されている。牛のげっぷに含まれるメタンガスの排出量を減らす可能性があるといわれているからだ。「温暖化はいろんなところに影響が出る。費用はかかるけど、少しでも対策になるなら活用していきたい」と菅野は話す。
1日260~500リットル
メタンは二酸化炭素よりも温室効果があるとされる。国立環境研究所(茨城県)や農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県)によると、1頭の牛から出るメタンの量は大人の牛の場合、1日当たり約260~500リットル前後と試算される。
牛のげっぷに、なぜメタンが含まれているのか。「胃の中の微生物が関係している」。農研機構で乳牛精密栄養管理グループ長を務める鈴木知之(53)は話す。鈴木によると、牛には胃が四つあり、一つ目と二つ目の胃に多数存在する微生物が、牛が食べた飼料を分解、発酵する過程でメタンが生成され、げっぷとして放出される。「メタン排出量に影響する要因のうち、最も大きなものが餌の摂取量だ」という。
メタンの排出抑制に向けた研究は各地で行われている。北海道大などの研究では、カシューナッツ殻液などを飼料に混ぜることで、メタンの削減効果が確認された。脂肪酸カルシウムに削減効果があるとする別の研究結果もある。
対策にコスト
国内では低メタン牛の育種技術や、メタン排出抑制技術の開発なども進められている。鈴木は「牛の育種や餌の改良による家畜生産性の向上により、農場の畜産物生産量を維持しながら頭数を抑制できる」と指摘。それにより、効率的な農場経営や農場からのメタン排出量の抑制につながると強調する。温室効果ガス抑制の取り組みや研究は欧州を中心に進んでおり、「国内外で、抑制対策をしていない畜産物が受け入れられない時代がくるかもしれない」と見通す。
ただ、抑制対策にはコストがかかり、農家の負担が増える場合もある。農研機構で乳牛精密管理研究領域長を務める佐々木修(59)は「消費者もそのことを意識し、協力できるところはしてもらいたい」と理解を求める。(文中敬称略)
◇
畜産分野の温室効果ガス排出量 日本の農林水産分野の温室効果ガス排出量のうち、牛を主とする家畜のげっぷや排せつ物の管理などが全体の約3割を占める