• X
  • facebook
  • line

除染土「安全基準に合致」、IAEA報告 最終処分や利活用の環境省計画

09/11 09:20

 国際原子力機関(IAEA)は10日、東京電力福島第1原発事故に伴う県内の除染で出た土壌の最終処分や再生利用に向けた環境省の計画について「安全基準に合致している」と評価する最終報告書を公表した。最終処分に関する戦略や工程については明確にするよう提案し、同省は年度内に再生利用を含め詳細な基準をまとめた省令を策定するなど、実現に向けた取り組みを加速させる。

 IAEAのアナ・クラーク廃棄物・環境安全課長が環境省で伊藤信太郎環境相に最終報告書を提出した。国際的な評価を受け、伊藤氏は「大変心強い。報告書を踏まえ、より良い形で再生利用と最終処分が進められるよう取り組みを進める」と述べた。

 報告書では、再生利用する土壌の放射性セシウム濃度を1キロ当たり8千ベクレル以下とする基準を「(年間追加被ばくの)線量基準を十分に達成できる」と評価。実証事業のデータから、土の中の放射性セシウムは水にほとんど溶け出さないことを確認したとした。

 再生利用の取り組みは、本県の復興に寄与していると強調。飯舘村長泥地区で農地造成などで土壌を活用する計画について「安全に実施されている」とし、国民の理解促進に向けて安全性を示すためにも継続するよう推奨した。

 一方で、県外最終処分の実現に向けては、場所の選定や利害関係者の理解、長期的な安全管理の方法などを念頭に「取り組むべき課題が数多く存在する」と指摘した。

 除染で出た土壌は2045年3月までに県外に搬出して最終処分すると法律で定めているが、場所は決まっていない。再生利用を含め国民理解が課題となっており、環境省の要請を受けたIAEAは昨年5月以降、中間貯蔵施設や土壌を使った実証事業を視察するなど会合を重ね、評価や助言をまとめた。

 理解促進効果は未知数 県外処分に政府歩みを

 【解説】東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た土壌の最終処分と再生利用の取り組みについて、国際原子力機関(IAEA)は最終報告書で安全性を担保したが、国民の理解促進にどの程度の効果があるかは未知数だ。政府はIAEAが与えた“お墨付き”に甘んじることなく、知恵を結集し、不断の努力で信頼性を高め、県民と約束した県外最終処分の実現に歩を進めなければならない。

 政府は最終処分量を減らすため、中間貯蔵施設に搬入する土壌約1400万立方メートルの75%を公共事業などで再生利用する方針。再生利用の推進が最終処分実現の鍵を握るが、環境省が関東で計画する実証試験は周辺住民の反発で宙に浮いたままだ。

 法律に明記された2045年3月の処分期限まで残るは20年余り。国民理解が広がりを欠く現状を背景に、再生利用の受け入れに名乗りを上げてもらうためには、地域振興に活用できる交付金制度の創設など「インセンティブ(意欲刺激)が必要」との声も出始めた。伊藤信太郎環境相は今年4月の国会質疑で、野党議員からインセンティブの検討状況を問われた際に「何も決まっていない」とかわしたが、与党内からも「あらゆる選択肢を排除せずに有用性を検証するべきだ」との指摘が上がる。

 一方、政府は昨年8月、IAEAの「国際的な安全基準に合致する」との評価を踏まえ、一気呵成(かせい)に処理水の海洋放出開始を決めた。当時も漁業関係者を含め国民の十分な理解は得られておらず、被災地を含む一部で「IAEAを後ろ盾にした既定方針の強行」との批判と不信を招いた。双葉郡の住民は「理解が進まない中での再生利用の推進は、これまで風評とは無縁だった地域が影響を受ける可能性もある」と警鐘を鳴らす。

 政府は本年度内に最終処分と再生利用の基準、処分場の構造や面積などに関する複数の選択肢を示す方針。IAEAは最終報告書で「選択肢を検討する際は早い段階から(住民ら)利害関係者の関与が重要」と言及し、事業開始前から地域社会との関わりを深めるよう奨励した。刻一刻と迫る最終処分期限を意識しながら、政府には説明と対話を尽くす責任の全うも求められる。(辺見祐介)

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line