自民党総裁選の所見発表演説会が15日、福島市で開かれ、立候補した9人が本県復興の在り方などで論戦を繰り広げた。各候補は第2期復興・創生期間(2021~25年度)終了後の財源や東京電力福島第1原発事故による日本産食品の輸入規制撤廃などに関して主張を交わしたが、復興政策に対して踏み込んだ発言はなかった。
未定となっている第2期後の復興予算について、林芳正官房長官は「第2期を上回る財源をしっかり確保し、復興を成し遂げることを約束したい」と強調。加藤勝信元官房長官は「財源を確保し、地域の復興と創生を遂げたい。福島国際研究教育機構(エフレイ)もまだこれからだ」と述べた。
演説会は各候補者が10分間、自由に政見を述べる形式。復興予算には多くの候補者が触れた一方、焦点の財源規模や期間への言及はなかった。
環境相時代などに本県との関わりが多い小泉進次郎氏は「私にとって福島は原点だ」と語り、中国などが続ける日本産食品の輸入規制に関し「首相在任中に決着できるよう、取り組みをさらに加速させる」と約束した。上川陽子外相は「粘り強く交渉し、規制を撤廃する。風評被害に苦しむ全ての産業が立ち上がれるよう、第2期後も国が復興の先頭に立つ」と訴えた。
浜通りを中心に進む新産業創出に関しては、高市早苗経済安全保障担当相が「エフレイでスマート農業や医療、ドローンなどさまざまな研究が進む。福島で生まれた技術・人材力に多くの日本人が助けられる日が必ず来る」と力説。小林鷹之前経済安保相は「世界と勝負できる産業の塊を福島に設け、国内外から企業や研究機関、人を呼び込む。雇用を創出し、若者が安心して住める地方をつくりたい」とした。
石破茂元幹事長は「懸命に復興庁の法案を書き、今につながった」と震災後を振り返り「いかにして国民を守るか、その体制をつくらねばならない」と防災庁創設の必要を訴えた。地方創生を巡り、茂木敏充幹事長は「先端企業を地方に立地するなどし、東京一極集中を是正したい」と語った。河野太郎デジタル相は地方分権改革に触れ「国がお金を集め、分配し、自治体に任せる仕事を増やしたい」と述べた。
復興に関する主張は与党の政府提言に沿う内容が多く、候補者独自の主張は乏しかった。除染土壌の県外最終処分など全国で難航が予想される課題にも言及はなく、来場者の一人は「福島の課題に対する温度差を感じた」と漏らした。市民約1100人が来場した。
「濃淡はっきり」
復興や経済の政策などを県民目線で考えて―。福島市で15日に行われた自民党総裁選の立候補者9人による所見発表演説会。来場した党員や市民らからは「日本を変えてくれる期待を感じさせてくれた」との声が上がった一方で、本県の復興に関して目新しい政策や踏み込んだ言及はなく「聞こえのいい言葉ばかりが並んだ印象もあった」との意見もあった。
650席を用意した会場には約1100人が押し寄せ、演説会は廊下まで立ち見が出るほどの注目を集めた。各候補は東日本大震災後の本県との関わりや復興への思いなど、それぞれのエピソードを交えて演説。福島市の会社員広野満(みつる)さん(74)は「9人の福島への思いは感じることができた」と感想を語った。
ただ県内の政界では、本県が抱える課題に対してより踏み込んだ論争もあると予想されていた。終了後、自民系地方議員の一人は「候補者によって濃淡がはっきり表れた」と述べた。また福島市の主婦(72)は「発言内容が薄く、単なる地元へのリップサービスに感じた候補者もいた」と率直な思いを語った。
会場には若い世代の姿もあった。「復興に関する部分以外では、それぞれ力を入れている政策に特色が感じられた」と話すのは、友人3人と一緒に訪れた福島大2年の木下京美(ことみ)さん(20)。「物価高の今、1人暮らしの生活への影響は大きく、将来働いた時への不安もある。給与所得の増加や日本経済の成長に注目していきたい」と経済政策に期待した。
裏金言及せず
同大2年の伊藤智充(ともみつ)さん(20)は、政権退陣のきっかけとなった派閥裏金事件に言及する候補がいなかったことを指摘。「会場で配られた各候補のチラシには裏金問題への対応が書かれていたが、誰も話さなかったことは気になった」と振り返った。