県が今月開始した、同性カップルの関係を公的に証明するパートナーシップ宣誓制度。宣誓後は一部の県行政サービスが受けられるようになり、法律上の夫婦に準じる権利を保障する意義は大きい。制度は全国で急速に広がっているが、先行自治体では課題も顕在化している。誰もが生きやすい社会の実現に向けては、制度の理念を民間や市町村と共有し、いかに広がりを持てるかが鍵になる。(報道部・斉藤隼人)
法的効力持たず
制度イメージは【図】の通り。パートナー関係にあると宣誓した2人には県から受理証明書が交付され、県営住宅への同居や県立病院での面会ができるようになる。県は市町村と相互に連携を図り、対象サービスを徐々に増やしていきたい考えだ。
公益社団法人マリッジフォーオールジャパン(東京都)によると、9日時点で全国467自治体が制度を導入した。今月も山口、新潟、滋賀の各県が相次いで運用を始めるなど急速に普及し、人口に対するカバー率は88%に及ぶ。
ただ、制度は自治体の要綱などで支えられ、法的効力がない。今回の県の制度も行政サービス以外には拘束力を持たず、例えば「病院での面会」であっても市町村立や民間の病院で認められるかどうかは各主体の判断次第だ。社会保障や税、相続などの優遇もない。
「安心感がある」
2015年に全国で初めて制度を導入した東京都渋谷区は、8年間で計75件の証明書を交付した。22年に実施した実態調査では利用者の6割強が「いざという時に役立つ安心感がある」と回答し、一定の評価を得ている状況がうかがえる。
一方で「証明書を利用できる民間サービスの手続きでもたらい回しに遭うことがある」など、なお理解の浸透が不十分な現状を示唆する意見もあった。区は証明書の活用機会を増やすため「事業者への理解促進をさらに推進する必要がある」との方針を示している。
県は周知徹底を
性的少数者の現状に詳しい福島大の前川直哉准教授(社会学)は「県は制度の周知を徹底した上で、事業者や市町村もパートナー関係にある2人を『家族』として扱う対応が求められる」と指摘。「各主体が意識的に対応しなければ制度の実効性は薄れる。官民両方の取り組みが必要だ」と話す。
19年度の県民意識調査で「性的少数者が生活しづらい社会だと思う(どちらかといえばを含む)」と答えた県民は7割を超えた。県内では施策などの動きが鈍く、家族向けのサービスを同性カップルに適用する民間事業者が少ないことなども影響したとみられる。
制度について、県男女共生課は「さまざまな形で周知を図る」と説明。市町村には説明の場を設けるが、民間への周知については「現在は未定」とする。
LGBT理解増進法が昨年施行され、自治体や企業には理解醸成や環境整備が求められた。こうした法や制度の導入を「最初の一歩」と位置付け、多様な価値観を認め合う社会への道筋を丁寧に描く必要がある。
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パートナーシップ宣誓制度 宣誓(届け出)した同性カップルらに自治体が受理証明書を発行し、婚姻と同等の一部行政サービスを提供する制度。事実婚夫婦を対象に含む自治体もある。法的権利や義務は発生しない。全国で29都府県に広がり、県内では今年に入って伊達、南相馬、福島、本宮の4市が相次ぎ導入した。