地質調査などを手がける福島県郡山市の山北調査設計は、社員募集枠に「eモータースポーツ選手枠」を新設した。働きながらコンピューターゲームなどの腕を競うeスポーツに挑戦する社員を支援する。10~20代の若者が活躍できる場をつくりながら若い人材の確保につなげようと、林英幸社長(57)は「若い人のやりたいことを応援し、県内トップ選手を育てたい」と意欲を見せる。
1972年創業の同社は、主に土木設計の基礎資料を提供してきた。前例のない選手枠を設けるきっかけは、林社長の車好きからだった。
サーキットでスポーツカーを運転することが趣味だった林社長は、動画投稿サイト「ユーチューブ」で自身が所有するホンダのスポーツカー「NSX」の動画を投稿していた。約1年前に自身のチャンネル登録者が、実車を再現できるモータースポーツゲーム「グランツーリスモ」でこのNSXを走らせた際、林社長はその完成度に目を奪われ、eスポーツに興味を持つようになった。
「初めはゲームだとばかにしていた」という林社長だったが、優勝賞金が国内で100万円、海外では数十億円にも上ると知った。日本自動車連盟(JAF)や大手企業がeモータースポーツの大会を開いていることも分かり、市場規模の大きさに驚いた。ゲームに関心が高いのは10~20代。eモータースポーツ選手として活動する若者を採用する体制を整えれば、少子化が進む中でも若い人材を雇用できると考えた。
林社長にとって若手社員は「背中を押してくれる」存在だ。現在の社員21人のうち約3分の1が20代。オリジナルキャラクターを発案するなど、さまざまな挑戦を通して会社を支えてくれている。今回採用を始めた選手枠でも「若い人はのみ込みが早い。eモータースポーツの技術や能力を仕事にも転換してしてくれるだろう」と林社長。中小企業の新たな成長戦略に期待を寄せる。(津村謡)
県推進協代表も期待 「企業にもメリット」
県eスポーツ推進協議会の中河西宏樹代表(42)によると、企業がeスポーツ選手の採用枠を創設するのは県内でも珍しい取り組みで、「仕事をしつつ、夢を追いかける若者が増えてほしい」と期待する。
中河西代表は「eスポーツで賞金を稼いで生計を立てられる人はごく一部」と活動の難しさを指摘する。
そのため企業が選手を採用することで安定した給料を得られるほか、大会の遠征費などの支援も受けられ「選手として活動しやすく、企業でも働きやすい」と効果を語る。
さらに、選手が大会で活躍することで企業の宣伝にもなり、若い人に認知されるメリットがあるとし、「eスポーツ選手の採用に興味を持つ企業も増えると思う」と話している。
18~25歳、3人程度採用
選手枠の採用は3人程度で、すでに募集が始まっている。募集年齢は18~25歳、1年間に最低1回以上は公式戦に出場することが条件。平日の日中は通常業務をこなし、終業後や休日に練習に取り組んでもらう。
同社は大会参加時の旅費などを支援する。現役レーサーに指導者として協力してもらう予定で、郡山市の事務所内にハンドルやアクセル・ブレーキペダルなど本格的な練習設備も設け、育成環境の整備にも力を入れている。問い合わせは同社(電話024・951・7293)へ。