【衆院選・有権者のまなざし】農業/コメを守る、政治も本腰を

 
集落営農として稲刈り作業中の入方ファームの組合員に声を掛ける薄井さん(左)。集落営農の環境を整える政策を期待している

 日本の未来を占う衆院選が19日公示された。県内は東日本大震災から10年を迎えて復興が進む一方、新型コロナウイルスの感染拡大によって生活は大きく変化した。さらなる復興や1年半後に迫る処理水の海洋放出、そして長期化するコロナ禍。県民は何を求め、何を選択するのか。

 黄金に染まった水田が広がる白河市入方地区。稲の刈り取りに追われる農家の姿があった。「穂が実る時期の天候不順でコシヒカリの収穫が1割は減りそうだ。ほかの品種は豊作で味もいい」。同市の農事組合法人「入方ファーム」の代表理事薄井惣吉さん(68)はそう語り、稲刈り途中の田んぼを見渡した。同法人は市内の集落営農の先駆けの一つだ。

 2012(平成24)年設立の同法人には地区の約30人の組合員が所属し、効率よく環境に優しい農業を続けてきた。近年は、ドローン活用やプラスチックごみ削減につながる肥料の採用など先端技術も導入する。

 法人は、農業機械を共同利用する地区の組合が発展し、経営の一本化を図ろうと生まれた。組合員には兼業農家が多く、後継者不足なども課題だが、地区の農家が「地域の農業は自分たちで守る」の理念で、力を合わせて農業を続けてきた。

 自粛の余波

 生産の中心であるコメはこれまで、全てを集荷業者に卸してきた。そのコメの価格は今年、新型コロナウイルスの影響で下落することが予想されている。感染拡大による飲食店の営業自粛などで、業務用米の需要が大きく低下していることが要因だ。ただ近年はパンや麺の人気が高まり、消費自体が減少している事情もある。

 こうした状況から同法人は9月、収穫したコメをブランド化し販路拡大につなげようと、独自のホームページを作成し個人向けの販売を始めた。それでも米価下落が長引けば、経営への影響も懸念される。薄井さんは「東京電力福島第1原発事故による風評被害も根強い中、さらに米価が下がれば打撃は大きい」と語る。

 付け焼き刃

 原発事故後、県内農家は全袋検査や作物への放射性セシウム吸収を抑制する肥料の散布など、安心安全な農作物の生産や発信に力を尽くしてきた。しかし、震災から10年がたっても風評は根強い。「(原発からの)処理水放出問題などで、国に『対策する』と言われても、簡単に済む問題ではない」と表情を曇らせる。

 人口減も進み、各地で農業の担い手は減り続ける。集落営農という形で地域の農業を守る薄井さんは「持続可能な農業のためには地域でリーダーを育成し組織的に農業を行う環境を一層整える政策が必要だ」と訴える。「国や政府は、市場隔離などの付け焼き刃的な政策だけでなく、各地域の農業を守る政策に力を入れて取り組んでほしい」(伊藤大樹)

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 輸入規制、緩和の動き 東京電力福島第1原発事故による海外の本県農産物などへの風評は、今も根強い。外務省によると、中国や台湾、韓国などを含む14の国・地域で本県産食品などに対する輸入規制が続いている。一方で9月に、米国が本県産米などを含む延べ100品目の規制を撤廃したほか、EUも今月から一部の規制を緩和した。震災10年を経過し、本県農産物の輸入規制を緩和する動きも出始めている。