【衆院選・最前線ルポ】5区/実績か対立軸か 復興へ悩む有権者

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響がいまだ残る、いわき市と双葉郡を抱える福島5区。復興相を務めた自民党前職の吉野正芳と、共産党候補として県内初の「野党統一候補」となった新人の熊谷智が一騎打ちによる舌戦を繰り広げている。7期の経験と実績か、それとも「処理水の海洋放出反対」など明確な対立軸か―。選挙区内でも復興の進度は異なるだけに、有権者は古里再生を委ねる候補者を慎重に見定めている。

反与党層へアピール

 「原発で苦労した福島5区から『ノー』を突き付ける選挙だ」。熊谷は22日に双葉郡に入り、福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針や、国内での原発再稼働に向けた与党の動きをけん制。23日には、いわき市で被災者が入居する団地などを中心に巡った。

 全選挙区で野党共闘が実現した県内で唯一、共産からの出馬。青地に黄色い文字で「野党統一候補」と目立たせた選挙カーでの遊説で野党共闘を連呼。共産支持層以外の「反与党」層へのアピールを強める。

 連合福島が自主投票を決めるなど選挙協力に不安があるが、当選へ8万票の獲得を掲げる。「『反自民』の候補者として党独自だった過去の戦いとは全く違う」。選対副本部長の吉田英策は手応えを感じている。

前回超す目標10万票

 過去の選挙戦で「復興が天命」と訴え続けてきた吉野。23日はそれを体現すべく双葉郡8町村に選挙カーを走らせた。「国際教育研究拠点を何としても双葉郡に」。訴えにも熱が入る。

 コロナ下での選挙。友好団体からの推薦状や閣僚経験者からの「ため書き」が所狭しと張られるいわき市平の選挙事務所では来客に記名と検温を求める。政策を訴える場となる街頭演説や個人演説も控えている。

 目標は前回から約1万4000票上積みした10万票。大票田のいわき市は10月市議会の会期中で「機動力を生かせない」(選対幹部)とするものの、選対本部長の吉田栄光は「組織を引き締め(相手候補の)考えに相反する組織、団体に政策の違いを働き掛けていく」と支持拡大に余念がない。

政治への思いは多様

 有権者は震災、原発事故以降、さまざまな政治判断をそれぞれの思いで受け止めてきた。双葉町で来年1月に始まる準備宿泊に向けた作業中、JR双葉駅に立ち寄った男性(77)は「政治には変わってほしいんだ。でも政権は変わらない方がいいのかな。分かんねんだ」。古里を託す一人を決められないでいる。(敬称略)