【衆院選・識者に聞く】復興/福島大食農学類教授・小山良太氏

 
「政府の震災、原発事故への向き合い方に変化があるのかどうか、注視していく必要がある」と話す小山教授

 震災と原発事故から10年以上が経過した今、被災地復興に対する政府の認識に変化があるのか、注視していく必要があると思う。福島第1原発を視察した岸田文雄首相は多くのタンクが並ぶ姿を見て、放射性トリチウムを含む処理水の海洋放出方針を巡り「先送りできない課題だと痛感した」と話したという。しかし、「タンクが満杯になって大変」というのは東電側の事情。せっかく被災地に来たのだから、福島の漁業者が努力して放射性物質の問題を克服してきたことなどにコメントしてほしかった。

 岸田首相は復興相を沖縄北方担当相と兼務にした。復興相がほかの担当相を兼ねるのは初。真意は分からないが、震災と原発事故に対する政府の姿勢の後退を意味していないか、注目していかなければならない。

 国のこれまでの復興政策はおおむね評価できると考えているが、当初の方向性がいつの間にか変わってしまったと疑問に感じる部分もある。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の中核に位置付けられる国際教育研究拠点は、過去に放射性物質汚染が起きた米ワシントン州ハンフォード核施設周辺の地域発展をモデルとし、福島で新たに産業を興すことを前提に始まったはずだ。実際ハンフォードでは、地域の住民組織が関わって技術を開発している。しかし今、イノベ構想は、国や研究機関の出先機関を誘致することを中心に考えるようになっていないか。地元の人が参加せず、国が勝手にやっているようなイメージが定着してしまっては駄目だと思う。

 今後の10年は、被災地で人材養成と研究開発が求められる時期になると思う。被災地復興の分野では与党と野党の政策の差は見えにくいかもしれないが、人材育成や研究開発に重点を置いて復興を訴えているかどうかに注目したい。

 風評対策も、政府の重要な仕事だ。諸外国で原発事故に伴う日本産食品の輸入規制の撤廃、緩和の動きがある。国際社会の理解を求める分野は福島の自助努力では解決が難しい。国が責任を持ち、輸入制限に科学的合理性がないことを国際社会で訴えてほしい。処理水の海洋放出問題で、政府は汚染水と処理水、トリチウム水の違いなど、科学的知識を広く理解してもらうことに力を入れるべきだ。そうした知識についてどれくらい理解が進んだか、調査し検証することも必要だ。

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 こやま・りょうた 東京都出身。北海道大大学院農学研究科を経て2014(平成26)年に福島大経済経営学類教授、19年食農学類教授。東京電力福島第1原発の放射性トリチウムを含む処理水の処分を巡る政府の小委員会で委員を務めた。専門は農業経済学。47歳。