【衆院選・識者に聞く】震災後の経済/県中小企業診断協会長・渡辺正彦氏

 
「本県の産業ビジョンや具体的な政策を県民に示すことが重要だ」と述べる渡辺会長

 東日本大震災から10年。相次ぐ災害や新型コロナウイルス禍に見舞われ、本県では事業者の経営体力の脆弱(ぜいじゃく)化や大型投資の頓挫など復興の「影」の部分が目立ち始めている。政治に求めるのは復興の進捗(しんちょく)や課題をしっかり検証し、本県の産業ビジョン(未来像)や達成までの具体的な政策を示すことだ。検証が不十分なまま、表面的な政策ばかりが語られるのは残念でならない。

 本県の事業者は震災後、補助金や金融支援策、東京電力からの賠償金などのいわゆる「贈与経済」の下に置かれた。しかし、これはいずれ終わりを迎える運命だ。

 事業者は贈与経済に守られてきた側面もあるが、本業で収益を生み出す力が低下し、デジタル化や脱炭素化、電子商取引(EC)の拡大といった経済環境の変化への対応も遅れてしまったという懸念がある。

 県際収支(県内と県外・国外の間の物やサービスの取引の収支)は震災を機に赤字に転じ、移輸入超過となった。県外からの資力に頼らざるを得ない事情は理解できるが、赤字基調が現在も続いている。風評被害やサプライチェーン(供給網)の途絶、大手企業の撤退、地元企業の体力低下などが背景にある。中小企業が下請け体質にあり、特許取得など付加価値を創出する力が弱いことも課題だ。

 「コロナショック」の影響も大きく、震災と同等か、それを上回る打撃を受けている。特に飲食業や宿泊業の落ち込みが深刻だ。今後注視すべきポイントはどのような回復曲線を描くか。国による助成金や補助金などの支援策はあるが、事業者の資金繰りは厳しい。借入金を赤字の穴埋めに充ててしのいでいる。債務超過に陥った事業者が多く、体力勝負のような状況だ。

 一方、コロナ禍を機に新分野への参入や業種・業態の転換などを目指す事業者を対象とした「事業再構築補助金」を活用する前向きな動きもある。近年にはない大型補助金で、県中小企業診断協会には何百件も相談が寄せられている。時代のニーズに合った新たなビジネスモデルを築くための追い風として期待したい。

 本県の製造品出荷額は東北一だが、トヨタ自動車の生産拠点がある宮城や岩手との差が縮まっている。本県に明確な産業ビジョンがないことが問題だ。自治体も企業誘致に熱を入れ、外から来る企業に頼りがちだ。本来は地元の中小企業を育成するための政策が重要ではないか。(おわり)

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 わたなべ・まさひこ 白河市出身。福島大経済学部卒。1977(昭和52)年に東邦銀行入行。主に融資・審査畑を歩み、常務などを歴任した。福島大うつくしまふくしま未来支援センター客員教授や東邦信用保証会長などを経て、2015年から現職。67歳。