【いわきFC・勝つ理由】運動量でJ1しのぐ 「体つき大差ない」

 
「動きやすい服のような筋肉」を身につけるため、一人一人の身体的特徴を考慮して行われているトレーニング

 サッカーJ1、北海道コンサドーレ札幌の選手らは両手を膝に当て、得点にわく地方リーグの選手がグラウンドを駆け回って喜ぶ姿を見つめるしかなかった。どうしてこんなに元気なんだ。選手らは格下相手の劣勢以上に、延長戦に入っても運動量の落ちない相手チームの姿に混乱していた。

 札幌で6月21日に行われた第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会2回戦は多くのサッカーファンにとって初めていわきFCの存在を知らしめる試合となった。初出場で国内リーグ7部相当のいわきは札幌を延長の末、5―2で破る番狂わせを演じた。

 延長だけをみれば30分で3―0。こぼれ球はほぼいわきFCが奪取。札幌はボールを追い切れず、いわきと競り合っても倒れ込む場面が目立ち、次々と点を許した。「われわれ(札幌)は終盤まで戦う力が残っていなかった」。札幌の監督四方田修平(44)が会見でいわきの運動量を評価して見せたところにJ1チームのプライドがにじんだ。

 番狂わせの原動力となったのはいわき選手の身体能力の高さ。いわきがクラブ創設当初から力を入れてきたポイントだ。やみくもに筋力をつけるのではなく、選手ごとの特徴を考慮しながら「動きやすい服のような筋肉」をつけるよう工夫を凝らしてきた。

 1週間のうち3日間は肉体強化のトレーニングが中心。今季からは試験的に遺伝子検査を行い、高負荷の肉体強化に耐えられる遺伝子を持つ、持たないなどの三つのグループに分けてそれぞれトレーニングの負荷や回数を変えている。3カ月に1度血液検査し、血液中からタンパク質が足りているか、疲れがたまっているかなどを計測し、強化案を検討する。「国内でここまで肉体強化に力を入れるサッカークラブはない」。いわきの専属パフォーマンスコーチの鈴木拓哉(36)は言う。日本のサッカー界では「筋肉をつけると体が重くなり、動きが鈍くなる」という概念が先行し、肉体強化に時間を割くのは珍しいという。

 入団当時と比べ体重が5キロ増え68キロとなったFW平岡将豪(22)の存在はいわきの肉体強化の象徴だ。札幌戦でダメ押しとなった4点目のゴールは体をぶつけてくる札幌の選手が逆に倒れ込む中、安定してボールを保持したままドリブルで突破しゴール前で待ち受ける菊池将太(24)につないだ。

 札幌やJ1の清水エスパルスのトップ選手と胸を合わせたMF金大生(22)も天皇杯で成長を実感した一人。「(日本代表の中心選手だった)小野伸二や鄭大世の技術はやはり上だった」と一流選手との距離を冷静に測りながらも、こう言い切った。「でも体つきは大差なかった」(文中敬称略)