「松川事件」風化と闘う...記録劣化に危機感 管理運営体制強化

 
「資料の保存処理が急務」と話す初沢教授。資料室には10万点を超える資料が保存されている=福島大・松川資料室

 松川事件とは何なのか―。それを後世に伝える関係書類の劣化が進んでいる。事件の当事者が少なくなる中で、裁判資料や元被告らの手紙などは貴重な事件の"記憶"だ。70年の節目を迎え、資料を保存する「松川資料室」がある福島大は、管理運営体制の強化に取り組んでいるが、課題も多い。

 これまでに資料室に集められた事件の関係資料は10万点を超える。福島大が収集した資料もあるが、松川事件の冤罪(えんざい)を巡る運動の参加者らから「後世に残してほしい」と"託された"資料も数多く所蔵されている。

 昨年、初代室長に就いた福島大の初沢敏生教授(57)=人間発達文化学類=は「経年劣化で限界を迎える紙資料が出てきている。資料を後世に伝える資料室の使命が脅かされている」と危機感を抱く。

 初沢教授によると、当時の紙は酸性度が高いため処理をしないまま放置すると、「ちりとなって消えてしまう」という。「重要資料の傷みが進むと記録の継承ができなくなる。資料の保存処理が急務だ」と課題を挙げる。

 福島大は、元被告20人の逆転無罪を決める証拠の一つとなった「諏訪メモ」など、一部の資料について保存処理を実施。残る多くの重要資料についても処理を行う方針だが多額の経費が必要となるため、対応できていないのが現状だ。

 2017(平成29)年には再び松川事件に対する関心を高めようと、福島大や支援者らでつくるNPO法人が中心となり、ユネスコの「世界の記憶」(世界記憶遺産)登録に向けた取り組みも動きだした。同年の申請では「基準に満たない」との理由から登録は実現しなかったが、再申請の準備も進めている。登録の実現には、事件に関する研究者の誕生など記憶を後世につなぐ人材発掘への期待も高い。初沢教授は「将来の申請のためにも準備を進めることが大切だ」と強調する。

 70年を経て刻々と進む事件の風化。課題に直面している事件の資料について初沢教授は「資料を活用することで新しい知見が生まれる。ただ保存するだけでなく、学生や若い研究者が集まり、博物館のような形態で研究する場にしたい」と話す。当事者らの高齢化が進む中、松川事件の記憶の扱いは今を生きる人たちに託されている。