【車社会の行方・高齢ドライバー】踏み間違え...精神的ショック

 
運転するため、車に乗り込む高齢ドライバー=県内(写真は本文とは関係ありません)

 高齢ドライバーによる悲惨な事故や、交通ルールを逸脱した「あおり運転」が大きな社会問題となっている。車の機能や安全性能も高まり、成熟したはずの車社会で何が起きているのか。車社会の今とこれからを考える。

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 県内在住の男性(80)に昨年末、外出していた妻(76)から電話がかかってきた。

 「車をぶつけちゃった。どうしたらいい」

 かなり動揺している様子の妻。男性が状況を聞いても、はっきり話そうとしない。しばらくして、駐車場に車を止めようと後進した際、車が加速して止まらず、後方にある大きな石に衝突したことが分かった。ブレーキとアクセルの踏み間違えが原因だった。

 会話も遠慮

 免許を取得して20年近く。妻はほとんど毎日運転し、無事故無違反の優良ドライバー。事故の半年前には免許更新のため認知機能検査を受け「問題ない」との結果が出ていた。

 妻は首にけがをしたが、それ以上に精神的なショックが大きく、しばらくは会話が続かなかったり、ささいなことに過剰に反応した。妻の心理状態に配慮し、男性は車に関する話題を避けるようになった。

 日常生活で不便なことから、妻は事故後も車の運転を続けている。男性は事故に気を付けるよう注意をしたり、免許返納などについて話をしたいが「夫婦の信頼関係にひびが入るかも」と恐れ、それもできない。できるのは「二度と事故が起こらないように願うだけ」だ。

 県警によると、県内で昨年起きた75歳以上の高齢ドライバーによる物損事故は過去5年で最多の4445件。全物損事故の8.6%を占め、前年より約100件増えた。単純計算で1日約12件発生している。

 一方、昨年の人身事故は415件(前年比57件減)で、死者数は8人(同1人増)。死者数は増えたものの、いずれも過去5年では減少傾向にある。県警交通企画課は「講習会を開くなどの対策をしていることや車の性能向上などが影響しているのでは」と分析する。

 身体の衰え

 男性の妻は物損事故で、車が人に衝突することはなかった。しかし、もしその場に人がいたらと考えると、男性は今も背筋が凍るような思いをする。

 使い勝手が悪いこともあり、夫婦はあまりバスを利用しないが、男性は体の機能の衰えを実感している。自らもいつ事故を起こすか分からない不安が付きまとう。「家族で支え合うといっても、支えられるかどうか分からない。避けて通れない話題だとは思うが、これからどうしていけばいいのか」。今も答えは見つかっていない。