失われた命、責任誰が 遺族「納得できぬ」、原発事故強制起訴判決

 
無罪判決を受け東京地裁に向かって憤りの声を上げる福島原発告訴団ら

 「気持ちは届かなかった。司法の限界を感じる」。東京電力福島第1原発事故を巡り強制起訴された東電の旧経営陣3人に無罪が言い渡された19日、原発事故に伴う避難中に命を落とした人の遺族は強い失望を口にした。「3人に責任を取ってもらったとしても母親は帰ってこない」と無罪判決を淡々と受け止める遺族もいた。

 「ショックだった。覚悟はできていたのだが」。大熊町から浜通りに避難している女性(66)は、法廷で「無罪」の言葉を聞いた時の気持ちを語った。

 双葉病院系列の介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」に入所していた父親=当時(92)と母親=当時(88)=を亡くした。この日、息子(41)と共に裁判の「被害者参加制度」を活用し、特別傍聴席に座っていた。

 無罪が言い渡されたその時、女性は被告たちの顔を見た。「表情は変わっていなかった。憎くて仕方ない」。後ろからヤジのような怒号が上がって裁判長の話はところどころ聞こえにくくなったが、女性は集中して判決内容に耳を傾けたという。

 「納得がいかないのは、業務上過失致死傷罪が問われているはずなのに、亡くなった人たちの話が出てこないこと。津波予見性が争点で、話は論文や学説の話ばかりで、難しかった」

 女性はこの裁判の以前の公判で「責任者が責任を取っていないのは悔しいの一言で、絶対に許すことはできません」と意見陳述していた。「裁判長に自分の思いを聞いてほしかった。でも、気持ちは届かなかった」

◆「原子力行政を忖度した判決」 指定弁護士 

 検察官役の指定弁護士は閉廷後、都内で会見した。石田省三郎弁護士は「国の原子力行政を忖度(そんたく)した判決だった」と批判した。

 会見には5人の指定弁護士が出席。「長期評価」の信頼性が低いと認定されたことについて石田弁護士は「裁判所が科学的な問題について、あそこまで踏み込んだ判断をして果たしていいのだろうか」と疑問を呈した。さらに刑事責任を科すための立証の難しさに触れ「われわれは力を尽くしたが、残念な結果となった」とした。

 強制起訴の発端となる、検察審査会への審査申し立てを行った福島原発告訴団も都内で別に会見を開いた。武藤類子団長は「残念の一言。あれだけの証拠がありながら、裁判所は間違った判断をしたと思う。福島の被害に真摯(しんし)に向き合ったとは思えない。誰一人として納得していない」と無念さをにじませた。

 被害者代理人の海渡雄一弁護士は「証拠はあったのに、判決に反映されなかった。次の原発事故を招くような異常な判断だ。司法の歴史に大きな汚点を残す判決で、認めるわけにはいかない」と裁判所を非難した。