高の倉ダム「緊急放流」...住民被害訴え 10世帯が浸水、全壊も

 
濁流で全壊した71歳男性方。すぐそばには水無川が流れる=15日、南相馬市

 「娘からの電話がなければ死んでいた。もうここには住めない」。台風19号の大雨が本県を襲った10月12日夜、南相馬市原町区高倉の「高の倉ダム」で緊急放流が行われた。ダムから東に約200メートル地点の自宅に住む男性(71)、女性(69)夫妻は、すぐそばを流れる水無川の越水で自宅が全壊したが、間一髪で難を逃れた。

 県の委託でダムを管理する市は、台風19号と10月25日の大雨でダムが満水になる恐れが出たため、県の規定に従って2度の緊急放流を実施。貯水率は最大で96%に達し、放水量は最大で毎秒約190トンに上り平常時に比べ最大約200倍の放流が行われた。

 台風19号での緊急放流の開始から1時間が過ぎた12日午後8時ごろ、夫妻は市内に住む長女(43)から緊急放流を知らせる電話を受け、急いで自宅から車で避難した。

 市は防災無線や防災メールなどで放流の周知を行ったが、71歳男性方には届かなかったという。翌日、自宅へ戻ると、平屋には床上1メートルの高さで濁流が押し寄せた跡があり、たんすや冷蔵庫は流失。隣接する作業場や納屋も倒壊していた。

 高倉行政区によると、区内ではほかに、約10世帯が浸水被害に遭った。71歳男性は「大雨が降ることは予想できた。あらかじめ放流して水位を下げておくことはできなかったのか。住民への周知も不十分だ」と訴える。現在、市内の仮設住宅に身を寄せる夫妻は16日、市内の災害公営住宅に引っ越す。しかし、無償提供期間は3カ月間で「生活再建が見通せない」と話した。

 市によると、1975(昭和50)年に完成した高の倉ダムは農業用の利水ダムで、事前放流などの洪水調整ができない。放流のためのゲートは貯水率が73%を超えないと機能しない。市は「規定通りの対応だった。ダムが満水となり崩壊すれば、さらなる被害が出た」と説明する。