【東日本台風1年】治水 動きだした遊水地計画...葛藤する住民

 

 東日本台風(台風19号)により、決壊や氾濫が相次いだ阿武隈川では緊急の治水対策プロジェクトが動きだした。国土交通省などが2019~28年度の10年間で集中的に対策を進める。その柱の一つが県南の矢吹町、玉川村、鏡石町の一帯に整備される見通しの遊水地だ。候補地となった地域の住民は計画のはざまで葛藤している。

 「遊水地になるなら、受け入れるしかないが、なるべく早く道筋を付けてほしい」。台風で近くを流れる阿武隈川の堤防が決壊し、濁流に襲われた矢吹町東川原地区。この地で畜産業を営む男性(49)は注文を付ける。

 度重なる洪水

 同地区は阿武隈川がS字に蛇行する場所にあり、支流の氾濫などで度重なる洪水に見舞われてきた。約20年前に10軒あった家々も水害のたびに集落を離れ、現在は4軒のみ。東日本台風では49歳男性が手塩にかけて肥育した15頭の牛が犠牲になり、自身も濁流が押し寄せる中で命からがら避難した。

 牛舎や城のように立派な自宅は先祖伝来の土地で畜産業を始めた両親がわずか1代で築き上げた。それだけに49歳男性は「水害はまた起きる。ここに住み続ければ子どもにもつらい思いをさせてしまう」と複雑な心境を打ち明ける。

 遊水地の計画は、福島河川国道事務所が今夏開いた住民説明会で知らされた。自宅裏の盛り土した高台に牛舎の建設を検討していたが、範囲に含まれる可能性が高い。さらに建設には国や県の補助金を活用しても、約6000万円の自己負担が必要なことから断念した。移転も家畜の臭いを嫌がる住民の反対も予想され、容易ではない。諸根さんは「自治体にも移転先探しに協力してほしい」と求める。

 水位下げる効果

 遊水地は洪水時に河川から水を流入させ、一時的に貯留することで、下流の水位を下げる効果が期待される。阿武隈川では須賀川市の浜尾遊水地(約230万立方メートル)が04年に完成。今後、3町村に約900万立方メートルの遊水地を整備する計画で、福島河川国道事務所が今秋から測量に入る。

 担当者は「東日本台風と同規模の雨量に対応するには堤防の整備だけでは限界がある」と指摘。「水がこぼれやすい地形の特性を生かし、遊水地として利用できるか検討する。丁寧な説明で地権者の理解を得ながら、一日でも早く事業を進めたい」としている。

 「令和の大改修」県内1130億円

 阿武隈川の緊急治水対策プロジェクトは県内の国事業だけで約1130億円に上り、「令和の大改修」と位置付けられる。流下能力を向上させるため、河川敷などから約220万立方メートルの土砂を掘削し、県南に約900万立方メートルをため込める遊水地を整備。堤防のかさ上げなども進める。「平成の大改修」の800億円を上回り、阿武隈川で過去最大となる。