歌手・伊藤久男「生家」解体へ 東日本台風で被害...苦渋の決断

 
解体に向けた準備が進められる母屋の居間で、久男との思い出を振り返る仁さん

 本宮市出身の歌手伊藤久男の生家の母屋などが、来年春をめどに解体される。久男は朝ドラ「エール」に登場する歌手佐藤久志(山崎育三郎さん)のモデル。生家は昨年の東日本台風で2メートル浸水する被害を受けた。朝ドラで脚光が集まる中、親族らは保存を模索してきたが、浸水被害と老朽化で苦渋の末に決断した。生家でドイツパン屋を営み伊藤家を継ぐ仁(ひとし)さん(65)は「つらいが、できる限りの方法で歴史をつないでいきたい」と話す。

 伊藤家は江戸時代末期には質屋などを営み、戦前は地元有数の大地主だった。1910(明治43)年に生まれた久男は、28年に上京するまで過ごした。

 母屋と蔵2棟が現存しており、木造2階建ての母屋は増築や改修が施され、詳しい年代は分からないが、その大部分は江戸時代末期に建てられたと推測されている。本宮の貴重な住宅の一つとして町史で紹介されている。

 久男は歌手として活躍してからも故郷を愛し、生家を何度も訪れていた。おいの妻エキさん(91)らによると、久男は戦時中に本宮へ疎開していたほか、県内や東北でコンサートがあると帰郷し、親戚や同級生と大宴会を催していたという。

 「久男叔父が帰ってくると、本宮の味を振る舞うために台所は大忙し。用意万端に準備した」とエキさん。エキさんの長男仁さんは「久男さんはお酒好きで、母屋の茶の間で楽しそうに酒を飲んでいた姿が懐かしい」と当時を思い出す。

 水害と老朽化により、水害前に3棟あった蔵のうち1棟は崩落の危険があり、すでに解体した。残り2棟の蔵は解体せずに保存していく予定だ。

 母屋は解体されるが、久男が朝ドラで注目を集めていることから、その功績に報いようと、来年春まで解体時期を延ばした。今後、郡山女子大などの協力で生家を測量し、データでの保存を進める予定だ。

 仁さんは「改修費用も多額で、保存するのは難しかった。ただ伊藤家の歴史をつくってきた久男さんら先祖のために時代にあった形で後世に伝えていければ」と話し、母屋を眺めた。