柳美里さん「南相馬の人々と喜び」 全米図書賞、対話重ね書き上げ

 
全米図書賞を受賞し、オンラインで記者会見する柳さん=19日午前

 「私の物語というより南相馬の人たちの物語。地元の方々から、おらほ(私の町)の物語、おらほの小説家と喜んでもらえたことがうれしい」。全米図書賞の翻訳文学部門に選ばれた南相馬市在住の芥川賞作家柳美里さん(52)は19日、受賞の喜びを語った。

 柳さんが「東北人の苦難の歴史。伝わりづらい小さな声を物語にした」という受賞作「JR上野駅公園口」。神奈川県鎌倉市で生活していた時に、上野公園のホームレスは東北出身者が多いと伝え聞いたことなどから着想を得た作品だ。主人公は南相馬市鹿島区の男性。2012(平成24)年から18年まで同市の臨時災害放送局でパーソナリティーを務めた柳さんは、市民ら約600人と対話を重ねた。「この時の経験や皆さんの声が私の中で地層になり、今回の受賞作を書き上げることができた」と話す。

 15年に南相馬市に移り住み、作品を発信し続ける。18年に同市小高区の自宅に開いた書店「フルハウス」は地域の交流の場にもなっている。「(候補になってから)来店する皆さんから口々に『賞を取れるといいね』と言われ、取れなければ皆さんをがっかりさせると緊張していた」と笑顔で明かした柳さん。賞の発表を待つのは以前だと自分のためだったが、今回は「受賞すれば『福島の人々が喜んでくれる』と思いながら発表を待っていた」という。

 米国で評価された理由を柳さん自身は「コロナ禍の影響もあるのでは」と分析する。「(作品は)行き場のない人の生と死を描いた。その絶望感がコロナ禍で行き場のない人たちに共鳴してもらえたのではないか」

 今後については「書きたい小説はいくつもある」と語る。「私は南相馬市で書店を営みながら暮らしているので、ここで見聞きして感じたことを作品にしていきたい。それは首都圏で生活していた頃の小説とは異なる物語になっていくでしょう」

 福島の思い世界に届けた

 福島市在住の詩人和合亮一さんの話 同じ福島の人間として、とてもうれしい。東日本大震災から来年で10年を迎えるに当たって、福島の現在を伝える柳美里さんの物語が、米国のみならず世界各地の方々に私たちの思いを乗せて届けてくれることをありがたく思います。柳さんは私と同世代の書き手の中で、ずっとトップランナー。私自身も詩人として、海外の壁はとても厚いと感じてきた。それを越えていく柳さんの背中を、自分なりに追い掛けていきたい。