【新春インタビュー・内堀雅雄福島県知事】「進める」転機の年

 
「今年は復興の加速と地方創生の大きな二つの契機に当たる年」と話す内堀知事

 内堀雅雄知事は福島民友新聞社の新春インタビューに答えた。今年を「新たな転機を迎える1年」と位置付け、復興の加速と地方創生に向けた「二つの契機」を最大限に生かして県政運営に当たる考えを示した。(聞き手 社長・編集主幹 中川俊哉)

 【21年展望】「福島で働こう」

 ―今年は、本県にとってどんな年になるのか。
 「大きく二つの契機があり、本県にとって『新たな転機を迎える1年』になると考えている。一つ目は『復興を加速させる契機』だ。今年は震災から10年の節目を迎えるとともに、第2期復興・創生期間に入ることから、移住促進や国際教育研究拠点の構築など、復興の新たなステージに向けた施策を進めていく。また東京五輪・パラリンピックで復興に向けた機運が今まで以上に高まる。これらの機会を最大限に生かし、福島の復興を加速させていきたい」
 「二つ目は『地方創生を進める契機』。新型コロナウイルス感染症は大きな危機をもたらしているが、対策を講じる過程で暮らしや働き方は大きな変化を見せ始めている。働き方では、リモートワークやワーケーションなどの取り組みが進み、『地方で働く』ことへの関心が高まっている。今後、こうした流れがより強まることが想定されるので、この機会を逃さず、福島ならではの魅力と可能性を広く発信していきたいと考えている。福島に心を寄せてくださる方々と共に、新しいチャレンジをしていきたい」

 健康ますます重要

 ―健康をテーマにした「チャレンジふくしま県民運動」は本年度で5年間の区切りを迎える。新年度以降、どのような県民運動に取り組んでいくのか。
 「本県の健康指標は震災と原発事故で悪化し、県民の健康状態は全国的に見ても極めて厳しい水準にある。そのため、食・運動・社会参加を3本の柱として、ベジ・ファーストやウオークビズなど、気軽に取り組める健康づくりを進めてきた。新型コロナの拡大で、以前に比べて運動や社会参加の機会が減少している。県民運動として進めてきた『気軽に取り組める健康づくり』は、ますます重要になっている。今後については、推進組織である『チャレンジふくしま県民運動推進協議会』で、実践状況や新型コロナの影響を踏まえた検討を進めており、今後、方向性を決めていきたい」

 【震災10年】「第2期」連携強固に

 ―3月で東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から丸10年を迎える。副知事、そして知事として対応した10年を振り返って。
 「震災と原発事故による未曽有の複合災害は、これまで築き上げてきた県民の誇りや古里に大きな影を落とした。県民の懸命な努力や国内外からの温かい支援により帰還困難区域を除き面的除染が完了し、空間線量率が大幅に低減した。避難区域の縮小、観光地のにぎわいの回復、県産品に対する国内外での高い評価、福島ロボットテストフィールドなどの新たな拠点施設の整備進展など、本県の復興は着実に前へと進んでいる」
 「一方で、今もなお多くの方々が避難生活を続けているほか、避難地域の復興・再生、被災者の生活再建、廃炉・汚染水対策、風評と風化の問題、東日本台風(台風19号)などからの復旧、そして新型コロナウイルス感染症への対応など、さまざまな課題が山積している。引き続き、生活再建や事業再開に向けた支援、生活環境の整備など、復興の進捗(しんちょく)に応じた『きめ細かな施策』と、福島イノベーション・コースト(福島・国際研究産業都市)構想の推進による新産業の創出など、福島の未来を形作る『大胆な施策』により、避難地域の復興・再生を進めていく」

 ―インフラの整備が進む一方、住民の帰還は思うように進んでいない。
 「住民の帰還を促進するため、医療・介護や商業施設、学校、交流施設など生活環境の整備を図ってきた。その結果、避難指示が解除された地域では住民の帰還が少しずつ進んでいるが、地域によって復興の状況や抱える課題は異なっている。今後も若い世代を含め多くの方々に帰還してもらえるよう、地元自治体や国などと共に全力で取り組んでいく。将来にわたって活気ある地域を築いていくためには、安心して帰還できる環境の整備に加え、交流・関係人口の拡大や移住促進などの施策を講じ、さまざまな人や新たな活力を呼び込んでいくことも重要だ。移住してきた人と、これまで地域に住んでいた人が力を合わせることで、復興・再生を推進して魅力あるまちづくりにつながるよう、国や市町村、関係機関などと連携しながら取り組んでいきたい」

 ―4月から第2期復興・創生期間に入る。本県の復興に向けたビジョンを聞きたい。
 「第2期復興・創生期間では、二つの課題への対応が必要になる。一つは、帰還環境の整備や地域産業の再生など『従来からの課題』、もう一つは、国際教育研究拠点の具体化や復興拠点外における対応など『新たに生じる課題』だ。二つの課題に柔軟かつ確実に対応するため、引き続き本県の復興・再生に必要な財源の確保を国に求めるとともに、国や市町村との連携をこれまで以上に強固にしていく」

 研究拠点「エンジン」

―浜通りに整備が検討されている国際教育研究拠点について県はどのように考えているか。
 「県では福島イノベーション・コースト構想を推進している。福島ロボットテストフィールドをはじめとする、さまざまな施設整備や産業集積などに取り組んできたが、各施設の連携を深め、その役割を最大化するために、構想の司令塔となる世界レベルの国際教育研究拠点の整備が必要だと考える。この拠点は、廃炉におけるロボットなどの最先端技術など、福島ならではの研究によってもたらされる知を融合し、創造的復興を成し遂げるための中核となることが期待されており、実現に向けて国と連携しながら取り組んでいる。今年策定される基本構想に向けた国の検討状況も踏まえ、県として市町村の意向を聞いた上で立地場所を提案するほか、市町村や関係団体と共に、研究者や企業などを引き付ける研究・生活環境づくりや産業集積に取り組む。浜通り地域の再生を加速させる新たなエンジンとして、世界に誇れる福島の復興・創生を目指す」

 処理水、情報発信

 ―東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法の決定が迫っている。県の考え方は。
 「自治体や関係団体などからさまざまな意見が示される中、昨年10月に開かれた政府の廃炉・汚染水対策に関する会合で、これまで寄せられた意見が整理、確認された。書面による意見公募では、処理水の安全性や風評への影響、合意プロセスなどに関する懸念が多くを占めたとの結果が報告された。この結果は、処理水についての正確な情報が十分に伝わっていないことや、風評対策が具体的に示されていないことが主な要因と考えている。このため、昨年11月に行った国への緊急要望の中で、改めて経済産業相に対し、県民や国民の理解が深まるよう正確な情報発信に取り組むとともに、具体的な風評対策を示すよう求めた。処理水の取り扱いによって本県の農林水産業や観光業に影響を与えることがないよう、国や東電は正確な情報発信と風評対策にしっかり取り組んでほしい」

 【新型コロナ】思いやり、勇気を発信

 ―昨年、日本はもちろん世界で拡大した新型コロナウイルス感染症は国民の生活を一変させた。今年はどのように向き合っていくのか。
 「『ウィズコロナ』の状態が当面の間、続いていくと考えられるため、県としては引き続き、検査・医療提供体制のさらなる充実強化を図っていく。感染拡大防止に当たっては、県民一人一人の取り組みが大変重要だ。マスクの着用や手指消毒、人と人との距離の確保、『三つの密』を避けるといった『新しい生活様式』の徹底と継続を引き続き呼び掛けていく」
 励ましの絆 大切に ―感染防止対策とともに、地域経済再生の取り組みも重要だ。
 「現在、県内経済は宿泊施設や飲食店をはじめ、さまざまな業種が大変厳しい状況にある。県では、独自の宿泊割引のほか、実質無利子型の特別資金など、きめ細かな支援に努めている。感染拡大の防止と社会・経済活動の維持、回復の両立という大変難しい課題を乗り越えるため、県民、関係機関と連携しながら総力を挙げて取り組んでいきたい」

 ―知事自身も濃厚接触者となり、2週間の自宅待機を経験した。その中で感じたこと、また「コロナ差別」をなくすためのメッセージを聞きたい。
 「今回の経験を通して、感染された方や検査対象となった方が非常につらく、切ない思いを持っていることを実感した。感染された方は周囲に迷惑を掛けてしまったという自責の念を持ち、検査対象となった方は結果が判明するまで大変不安な気持ちになる。『ウィズコロナ』の中では、誰もが感染する可能性がある。県民には感染された方や家族、医療従事者も含めた関係者に対して、誹謗(ひぼう)中傷をするのではなく、温かい気持ちで接してほしい。震災と原発事故に伴う、つらく苦しい風評に見舞われた経験を持つ本県だからこそ、思いやりの気持ちを大切にして、優しさと励ましの絆で、新型感染症を乗り越えていきたい」

 【五輪・パラ】

 ―新型コロナの影響で延期された東京五輪・パラリンピックが今夏、開催される。「復興五輪」への期待を。
 「まずは開催に向けて基本的な感染症対策の徹底をお願いするとともに、関係機関と連携して検査・入院体制を拡充するなど、県の総力を挙げて感染拡大防止に取り組んでいかなければならない。世界中が一体となって取り組む先にある東京大会は、どんな困難も乗り越え『新型感染症からの復興』を成し遂げる勇気を世界に与えてくれるはずだ。『震災・原発事故からの復興』を国内外に発信する貴重な機会でもある。二つの『復興』を意味する大会になることを期待している」

 福島の今を伝える

 ―福島市では野球・ソフトボール競技が行われる。Jヴィレッジ(楢葉町、広野町)をスタートする聖火リレーも含め本県の復興をどのように発信するのか。
 「会場となるあづま球場周辺やライブサイト会場で、県民や関係団体と力を合わせてイベントを行い、震災から10年が経過した福島の今を発信する。聖火リレーは原発事故による避難地域を中心に26市町村を巡り、復興の現状や福島の魅力を発信できるよう、準備を進めている。聖火ランナーや観客、地域住民の安全・安心を確保するため、大会組織委員会から示された感染予防策を講じながら、復興五輪のスタートにふさわしい聖火リレーとなるよう準備を進める」