先送り6カ月、政府動き鈍く 処理水海洋放出、理解得る努力希薄

 

 東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法を巡り、政府は海洋放出の方針を固め、13日にも正式決定する。当初、昨年10月にも処分方法を決める見通しだったが、約半年ずれ込んだ形だ。大きな影響を受けるとみられる全国漁業協同組合連合会(全漁連)は、あくまで「断固反対」としており、国民、国際社会の理解も深まっていないのが現状。なぜ「今」なのか、政府には合理的な説明が求められる。

 ◆◇◇最悪タイミング

 「できるだけ早く」「適切なタイミングで」。昨年9月の就任以降、処理水の処分方法の決定に向け、菅義偉首相は繰り返し発言してきた。今月7日には全漁連の岸宏会長、県漁連の野崎哲会長らと面会、海洋放出への理解を求めた上で、記者団に「近日中に判断したい」と明言した。

 県漁連にとっては試験操業を終え、本格操業に向けた移行期間が始まったばかりの「最悪のタイミング」。全漁連側は説明責任や風評対策など5項目を申し入れ、野崎会長は「漁業の継続が漁業者の統一した意思。地元として海洋放出に反対する」と改めて訴えた。

 一方、第1原発が立地する大熊、双葉両町は、議会が昨年9月に意見書を可決するなど処分方法の早期決定を求めてきた。処理水の原発構内での保管が続くことが、町民の帰還意欲を失い、復興の足かせにつながるとの考えからだ。ただ、処理水を貯蔵するタンクの容量が来年秋以降に満杯になると見込まれる中、実際の処分開始までには2年程度かかるとされており、この時期の方針決定は地元の意向に応えたともいえない。

 ◇◆◇一度決定の構え

 政府が方針決定への動きを加速させたのが昨年10月だった。同8日の意見聴取会で、過去6回の会合でかなわなかった全漁連の出席が実現。政府はその後、水面下で県内自治体などへの説明を始めた。同23日の廃炉・汚染水対策チーム会合を経て、4日後の27日に予定していた閣僚会議で決定する構えだった。

 だが、その動きが報じられると、風評被害の拡大など海洋放出の影響を懸念する団体などが一斉に反発。「27日に政府方針の決定はしない」。梶山弘志経済産業相は廃炉・汚染水対策チーム会合後の記者会見で、こう述べざるを得なかった。

 ◇◇◆東電相次ぎ問題

 「先送り」は表向き、風評被害を最大限抑制する処分方法や経済対策を含めた具体的な風評対策、情報発信など「何ができるかの検討をさらに深める必要がある」(梶山経産相)ためだった。しかし、意見聴取会は昨年10月で事実上終了。海洋放出への理解を得るための取り組みは見えず、県民、国民にとってこの半年は「空白期間」でしかない。

 「なぜ今なのか。やり方に怒りを覚える」。9日の参院東日本大震災復興特別委員会で、与党・自民党の森雅子前法相(福島選挙区)が政府を痛烈に批判した。「空白期間」には、第1原発3号機に設置した地震計の故障の放置や柏崎刈羽原発(新潟県)の核物質防護不備など、東電を巡る数々の問題も浮上した。科学的な安全性に対する国民、国際社会の理解の醸成と、避けられない風評の払拭(ふっしょく)に向けた対策の両立に取り組む上で今、処分方針を決定する政府の責任は重い。