【風評の行方・処理水放出】監視体制 「安心、理屈じゃない」

 

 「政府方針通りに処理水が放出されれば、安全が担保されるのは理屈として分かる。ただ、現状の情報発信の仕方では国民の安心につながらない」。漁業者を中心に海洋放出反対の意見が相次ぐ中、県内漁業者や有識者でつくる「復興協議会」委員で北海学園大の浜田武士経済学部教授(52)=地域経済論=は、安全だけでなく、安心の確保に向けた新たな取り組みの必要性を訴える。

 海洋放出は国内外を問わず他原発で実施されている。それは事故前の東京電力福島第1原発でも同じ。ただ、2年後をめどに第1原発から放出されるのは溶融核燃料(デブリ)などで汚染され、浄化された処理水。それだけに、浜田氏は「ニュースを見た人の不安を取り除く取り組みとして、数値上の基準値をクリアするだけでは足りない」と指摘する。

 政府方針では、放射性物質トリチウムの濃度は国の規制基準(1リットル当たり6万ベクレル)の約40分の1となる1500ベクレル未満まで希釈され、年間に放出する総量も事故前と同程度の22兆ベクレルを下回る水準とする。国際原子力機関(IAEA)の協力を得て信頼性を確保するとともに専門家らによる会議を設立して客観性、透明性を高めるなど監視体制を強化・拡充する方針。東電が実施するモニタリングへの農林水産業者や地元自治体の関係者の参加も検討している。

 第1原発では現在、敷地内の地下水をくみ上げ、原子炉建屋内で汚染される前に浄化して海に流すなど汚染水を減らす取り組みが行われており、東電は海洋への影響を監視するため、放出口や原発港湾内、沖合でのモニタリングを実施している。東電は今後、海洋放出時の監視体制についての検討に入るが、具体的な見通しは立っておらず、担当者は「回数を増やすか、モニタリングポイントを増やすかはまだ白紙」とした。

 政府、東電が強化・拡充すると位置付ける監視体制が、浜田氏の目には「今までと変わらない」と映る。鮮魚売り場に並ぶ魚介類の前で魚が泳ぐ映像とその周辺の数値をリアルタイムで流すなど「国民の目に付く、分かりやすい情報提供」が必要とする。浜田氏は政府、東電の姿勢にこう投げ掛けた。「安心は理屈じゃない。人と人との間で生まれるものだ」

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 東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分に関し、政府は海洋放出とする方針を正式決定した。漁業者をはじめ反対の声が根強い中での実施には風評被害を防止するための徹底した対策が不可欠だ。政府方針に盛り込まれた風評対策を問う。