【風評の行方・処理水放出】販路拡大 支援具体策、提示が先

 
本格操業に向け取り組む漁業者のため、イオン東北が展開している県産鮮魚の応援販売

 県内の漁港で水揚げされた鮮魚が並び、検査体制などを学んだ専属の販売員が店頭に立って買い物客の質問に答える―。全国でスーパー「イオン」を展開するイオンリテールが県や県漁連と協力して取り組む「福島鮮魚便」の売り場は、連日、本県産鮮魚を求める客らでにぎわう。

 この取り組みが始まったのは、東日本大震災から7年が過ぎた2018年6月。首都圏の5店舗で「福島鮮魚便」と銘打った本県産鮮魚の売り場が常設された。県によると、それ以前に県外の量販店で県産鮮魚が扱われたことはなかった。こうした背景から、開始1年後に県が行ったアンケートでは「なぜ福島県産のものを扱うのか、危険ではないか」など否定的な意見も一定程度あったという。

 福島鮮魚便は現在、東京、埼玉、群馬、宮城の1都3県の13店舗に拡大。同社広報担当の山下淳さん(46)は「専属の販売員が対面で丁寧な説明を続けてきたことで、若い世代の利用も増えた」と語る。当初あったネガティブな意見も「常設を続けることで顕在化しなくなってきた」(県水産課)という。

 県内外の生産者や流通・販売業者らが地道に重ねてきた風評払拭(ふっしょく)の取り組みは、着実に実を結びつつある。消費者庁が原発事故後に続ける農林水産物などの消費者意識調査でも、放射性物質を理由に購入をためらう産地として「本県」を挙げた人の割合は今年、初めて1割を下回った。「処理水が放出されようがされまいが、安全・安心だと分かったものを販売する。その気持ちは変わらない」。山下さんの言葉に決意がにじむ。

 政府の基本方針には、水産業をはじめ観光・商工業、農林業などで処理水の海洋放出による風評を抑制するため、販路拡大や観光誘客促進の支援策を講じることが盛り込まれた。だが、具体策についてはこれからだ。県水産市場連合会の石本朗会長(70)は「何に対してどう支援するのか、具体的な対策を明示してから方針を決めるのが筋だろう。順番が逆だ」と憤る。

 この10年間、形がなく、一人一人の捉え方によって異なる「風評」という難題と闘い続けてきた県民や、それを支えてきた人たちにとって、地道な努力の成果が出つつあるからこそ、海洋放出によって新たな風評を招きかねない事態への不安は大きい。こうした思いをくみ、周到な風評対策を構築していくことの責任は重い。