肉牛生産赤字補填、割食う福島県内 「東北」単位、交付額少なく

 

 肉牛の販売価格と、餌代などの生産費を比べて赤字が出た場合、国などが差額の9割を補填(ほてん)する「肉用牛肥育経営安定交付金制度」(牛マルキン)の算定方法が昨年5月に見直されてから1年となる。交付額を都道府県ごとに算出できる仕組みから、東北などブロックごとに決める方式に変わったが、東京電力福島第1原発事故の風評による価格低迷に苦しむ本県には不利益が大きく、新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、肉牛農家の苦悩が続いている。

価格低迷苦しむ

 「(新型コロナの影響で需要が落ち込み)全国的に販売価格が下がれば、県産牛も全国平均より安いまま同じ分だけ下がる。なのに実態に合った交付額が算定されないのは納得しようがない」。大玉村の肉牛農家鈴木広直さん(72)は憤る。

 風評で急落した県産牛の販売価格は、事故から10年が過ぎた今も「全国平均より(1キロ当たり)250~300円安いまま」(鈴木さん)の状態が続く。1キロ数百円の差は、1頭では十数万円に広がり、大きな痛手となる。風評に苦しめられ続ける本県の肉牛農家に追い打ちを掛けたのが「牛マルキン」の改正だった。

「10万円以上減」

 制度改正は、新型コロナの感染拡大で外食需要が落ち込み、全国的に牛肉価格が急落したためだ。ブロックごとに価格をならし、多くの農家が補填を受けやすくする目的だったが、コロナ前から風評で価格低迷に苦しんでいた本県の農家は割を食っている。東北は米沢牛(山形県)や前沢牛(岩手県)、仙台牛(宮城県)などがブロックの平均価格を押し上げている。このため、本県産の牛肉に東北の平均価格を当てはめると、販売価格が実際より高く算出され、元の方式より交付額が少なくなってしまう。

 県の試算では、ブロック算定の交付額は、新型コロナの影響が大きかった昨春時点で「1頭当たり10万円以上減った」(畜産課)という。コロナ禍が長引けば価格低迷が続き、牛マルキンの交付を受ける機会も増える。県は、制度改正から1年間の交付額が元の算定方法と比べ「多い人で数百万円減ったのではないか」(同)としている。

意欲そぐ可能性

 県やJAは昨春以降、農林水産省に対し、制度を元に戻すよう再三要望してきた。こうした声に、農水省は「復興支援(での補償)を続けていく」との回答を繰り返す。しかし、県の担当者は「赤字になった場合に加入者が平たく交付を受けられる牛マルキンは、農家にとって万一の時の保険のように受け止められている。復興支援とはそもそも性質が異なる」と指摘する。

 本県の肉牛農家はこの10年、出荷停止や価格急落の危機と闘いながら、牛の全頭検査や餌となる稲わらの放射性物質検査など、県産牛肉の信頼を高めるため地道な努力を重ねてきた。

 それでも価格は回復しきらず、新型コロナの影響が続く中での制度改正に、この一年で廃業を選択した農家もいるという。「金額としての損失も大きいが、10年間の苦労の上に今があるからこそ、制度改正が生産者の意欲をそぐきっかけになりかねない」。県担当者の言葉に危機感がにじむ。

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 牛マルキン 1991年4月の牛肉輸入自由化の際、国内農家を保護するための緊急対策として始まった制度。マルキンのキンは「緊」に由来する。国と生産者が3対1の割合で積み立てた基金を財源とし、農畜産業振興機構が毎月、1頭当たりの標準的販売価格と、子牛の購入費や餌代など1頭を出荷するのに必要な費用(標準的生産費)を算出、交付額を決める。