コロナ禍、帰郷の妨げに 震災・原発事故で県外の高齢者施設に

 

 長期化する新型コロナウイルス感染症の流行が、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響で県外の高齢者施設への入所を余儀なくされた県民の帰還に暗い影を落としている。「コロナが憎い」。震災から10年の節目に本県に戻る準備を進めていた男性は、やるせない思いを明かした。

◆古里へ戻りたい

 「(弘前市での暮らしは)快適だけど、戻れるのなら戻りたい」。青森県弘前市の社会福祉法人弘前豊徳会が運営する老人保健施設「サンタハウス弘前」に入所する男性(69)=南相馬市=は古里への思いを吐露した。

 男性は震災直後、家族別々で避難。原発事故から1年後、自宅に1人で戻ったが、体調を崩して入院した。その後に発症した認知症の影響で家族との関係が悪化した。県内で入所できる施設を探したものの見つからず、2017(平成29)年5月にサンタハウス弘前に入所することになった。

 入所から約3年。認知症の症状が落ち着き、男性は昨年2月ごろから帰郷に向けた準備を始めた。施設見学や体験入所を経て相双地方の施設に入る目星は付いたが、新型コロナが全国的に感染拡大。昨年4月の全国一斉の緊急事態宣言で見送りとなった。

◆クラスター多発

 震災後、本県では施設の減少や介護職の担い手不足から、要介護者が県内の施設に入所できないケースが出ている。国は災害特例で要介護者を定員を超えて受け入れることを認め、サンタハウス弘前は要介護者を受け入れながら、帰郷の手助けをしている。

 だが、今月の感染確認が月別で過去最多の1161人(29日現在)に上るなど本県でも感染が急拡大している。年明け以降、高齢者施設でのクラスター(感染者集団)も相次いだため、県は重点対策期間を設定し高齢者施設などではクラスターの発生防止に躍起となった。

 高齢者向けのワクチン接種の進捗(しんちょく)は光明だが、施設にとって遠方から新たな要介護者を受け入れるリスクは低くはない。男性も弘前市で1度目のワクチン接種を受けたが、こうした状況が重なってしまい、帰郷は実現していない。

◆一からやり直し

 弘前豊徳会広域連携室長の宮本航大さん(42)は「帰れるのに帰れない。また一からやり直しになる」と肩を落とす。現在は福島県の補助金を活用して本県の高齢者施設とのリモート交流会を企画するなど、男性と古里とのつながりを維持するため、試行錯誤している。

 震災から丸10年を控えた3月上旬、本県の高齢者施設との料理交流会が開かれた。レシピは相馬市の青のりとシラスを使ったピザだった。「早くコロナが落ち着くといいんだけど。帰ったら庭の草むしりがしたいな」。なじみ深い素材を前に男性はこうつぶやいた。