【励ましの社会】医療の実情理解を 日本看護協会長・福井トシ子氏

 
ふくい・としこ 大玉村出身。県立総合衛生学院保健学科、旧厚生省看護研修研究センター看護教員養成課程助産婦養成所教員専攻修了。杏林大医学部付属病院看護部長などを歴任。日本看護協会常任理事を経て2017年から現職。65歳。

 新型コロナウイルス感染拡大の「第4波」が県内でも猛威を振るい、医療の最前線では県民の命と健康を守るため医師や看護師ら医療従事者が厳しい闘いに臨んでいる。県民は医療従事者とどう向き合い、今何をすればいいのか。日本看護協会の福井トシ子会長(大玉村出身)に聞いた。

若者の重症増加

 福島県内でも中核病院でクラスター(感染者集団)が発生し、収束に大変苦労されたと聞いています。一般診療とコロナ診療との両立、一般診療を抑えてコロナ対応を優先させなければならない―。病院の執行部にはこの判断をどうするのか、せめぎ合いがあったと思います。こうした状況で看護職は一般病床もコロナ病床も診なければなりません。自らも感染リスクがある中で対応を迫られます。

 看護職は1年以上、自粛を余儀なくされています。1人で食事を取る「孤食」を続け、リフレッシュする機会も持てない上、帰宅することもままならず、ホテルに詰めて患者さんに対応している看護職もいます。コロナ病棟に配属されたことを家族にも言えない状況さえあります。もちろん、看護職を支える家族にも心痛があるでしょう。

 日本看護協会が昨年行った調査で「感染拡大による看護職員への差別や偏見があった」と答えた割合は20.5%に上りました。看護職をはじめ医療従事者は心身ともに疲弊しながら、住むことも食べることも制限された環境の中で、国民の命を守るために一生懸命働いているのが現実です。

 深刻になっているのは、コロナに感染した20代、30代の重症患者が増えていることです。若者も重症化すれば回復に時間がかかり、その分、病床の逼迫(ひっぱく)につながります。高齢者はさらに回復に時間がかかりますので、症状が軽くなっても転院先が見つからないという問題が出ています。

 寝たままの状態が続くと、起き上がり、歩き出すのが難しくなる「廃用症候群」になります。通常は集中治療室に理学療法士が入り、リハビリをしながら回復に備えますが、コロナの患者さんにはこうしたチーム医療の態勢をつくるのが困難です。「若いから大丈夫」では決してなく「いつ重症化してもおかしくない」と自分の身に置き換えて行動してください。

使命感の「限界」

 「本当に助けたくても助けられない命がある。人ごとではなく、自分のことと捉えて感染予防行動を徹底していただきたい」。これは、神戸市の西神戸医療センター副院長・看護部長が動画で訴えているメッセージです。大阪府や兵庫県、神戸市などでは、重症の患者さんでも入院できず、ホテル療養を余儀なくされているため、必要な医療介入がタイムリーに行われていない事態が起きています。

 看護職はもはや使命感だけでは対応が難しい状況です。看護職の数を増やし、連続で休暇を取れる環境につなげていく。使命感だけではなく、達成感を得られるようにするには休暇と、仕事に見合った給料が支払われるよう診療報酬などで対応する必要もあります。

 看護職が置かれた環境を改善し、コロナ禍のような有事の際に、看護職に活躍してもらえるようにするには、国民全体に看護職の実情を理解していただくことが前提になります。

 看護職が仕事をする喜びを感じられるようにするには何をしたらいいのか。特別なことではありません。国民一人一人が、感染しない、感染させないことが一番です。そして看護職を看護に専念できるようにする。お互いを尊重し合う環境づくりが求められているのではないでしょうか。

 感染拡大の「第1波」の時に多かったのですが、亡くなられた患者さんへのケアを十分できないまま、ご遺体を納体袋に納めて帰っていただくことは、看護職にとって、とてもやりきれないことでした。通常はご遺体にエンゼルケアを行い、お別れの時間を十分に設けることができます。しかし、コロナの場合、それらができないことの不全感、ご遺体とご家族への申し訳なさがありました。その学びからケアの方法が少しずつ確立されてきました。一連の流れをしっかりと行い、患者さんのケアに対する達成感を得られるようにするべきです。

 同時に看護職のメンタルケアも非常に大切です。看護職がお互いの状況を確認し合い、感情を吐露しつつ肯定的に対応していく。そのため病院に看護部組織があり、認定看護管理者による管理が行われ、環境を整えていることが重要です。日本看護協会はメールなどで相談を受け付けています。最前線の看護職が精神的に追い込まれ、誰にも守られていない、仕事を続けられないと感じることのないように、看護職を関係者と共に支えていかなければなりません。

震災経験が底力

 震災と原発事故の時に10歳前後だった人たちが今年、看護師の国家試験に合格しました。この10年の経験の中で何を考え、何を学び、どう行動したかが、これから看護職を目指す人たちにとって、底力になっているはずです。

 私たちは出口の見えない状況に耐えようと、いろいろなことを考え、理解が深まることで、また新たな考えが浮かぶことを実体験しています。未曽有の事態が続く中、今の経験がこれからの看護に必ずや役に立つと思います。現状を悲観的に捉えるより、何を考え、どう行動するかにつなげていってほしいと思います。